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ライナルト、意外な弱点と意外な特技

 結局まともなホームルームにはならず、1日が始まった。

 4限目は体育、競技はバレーボールだった、のだが……。


「やってられるか、こんなん……」


 ライは非常に不機嫌だった。


「おーい、ライ君、テンション低いぞー!」


 向こうのコートから優華の声が響く。ちょうど休憩中のようだ。


「うるさい、こんな球を叩くだけでコントロールせにゃならんとか、ただの無理ゲーだ!」


 ……どうやらライは球技がとことん苦手らしい。まぁ、そう言う割には、飛んできたボールを『殴って』相手に返してはいた。芯を捉えることはできるが、自在というわけにはいかないということだ。

 そんな事を続けているうち、ライは男子の目線が時折明後日の方を向いたままになることに気づいた。その間に打ち込めば何の苦もなく点数が入るだろうが、周りを見れば全員が向いていたので、彼も見てみることにした。


「……はぁぁぁ」


 大きな溜め息をつくライ。なんのことはない、奈々枝が頑張っていたに過ぎない。ただ、その大きな胸に男子生徒達の目が釘付けになっていただけだ。

 彼女の下着の努力?もむなしく、押さえつけの限界はとっくに超えているようだった。

 揺れるたびに息を飲む音すら聞こえ、レシーブのために両腕を出すたびに胸が押し上げられて「おぉ……」と感嘆の声が上がる。しかも、よく聞けば女子の声もあることに気づくだろう。

 ちなみに当の本人は競技に必死で気づいていない。


「…………」


 そしてライは、ボールを持ってネット際まで行き、上に放り投げ、自分も跳び、


打ち下ろしの右チョッピングライトッ!!」


 とボールを叩きつけ、城二の横っ面にぶつけた!


「ぶげっ!……っ、何しやがる!」


「お前の目が誰よりも変態的だったから成敗したまでだ」


 まったく悪びれもせず、むしろ正義を行使したと言わんばかりの態度だった。





「ふぅ、疲れました……」


「そりゃ、あれだけ見られてたらな……」


 授業が終わり、片付けに入る。ライと奈々枝は大きなモップで床を拭いていた。

 視線を感じる余裕は無かった奈々枝だが、その影響は如実だ。


「えっ、そんなに見られてたんですか?やっぱり転校生だからでしょうか……ちょっと恥ずかしいですね……」


「…………」


 ライは答えない。そこんとこは紳士だ。

 そして拭き終えた頃には他の者も集まっていた。あと片付けるのはボールだけだ。


「さて、最後の仕上げか……ん?」


「どうしました?」


「いや、靴紐がほどけただけだ」


 そう言ってかがむライ。正面に立つ奈々枝も、膝に手をついて覗き込もうとする。当然、またも胸が押し上げられる形になるが、ライは気づかない。

 その時、奈々枝の姿を見ようとした城二がボールの籠に突っ込み、弾かれたボールが奈々枝の脚に当たる。不安定な体勢だったためか、バランスを崩した。


「わ、わわっ!」


「ん?」


 声に気づいたライが見上げると、奈々枝が倒れ込んで―――


 アビリティ『お色気ハプニング回避』発動!


「あ、あら?」


「危ないな。大丈夫か、月夜宮さん?」


 奈々枝の体は、ライの肩に担がれているような状態だ。

 ライは、しゃがんだまま体を前に押し出し、自身を緩衝に使いながら肩で受け止めたのだ。

 肩が奈々枝の腹部に触れている以外はまったく触れていない。


「あ、大丈夫です、ありがとうございます」


「ならいい。気をつけるんだぞ」


 奈々枝はゆっくりと体勢を戻す。

 ……その時、小さな話し声が聞こえてきた。


「……なんか、同情すら覚えるよな……」


「ああ……あのたゆんたゆんに押し潰されるチャンスまで自動回避だもんな……」


「普段わざと回避してる奴でも、あの誘惑には勝てないよな……」


「お前ら……アホ抜かす暇あるならボール片付けろよ……」





 そして昼休み、食事の後のこと。


「さてと、昼寝でもするかな……」


 そう呟き、目を瞑るライ。その隣では優華と奈々枝がひそひそと話していた。

 ライがまどろんできた頃に、奈々枝が話しかける。


「あの、ライナルトさん?」


「……ん、何だ?」


 彼女は可愛らしいリボンを差し出しながら言った。


「リボンがほどけてしまって……申し訳ありませんが、三つ編みをしてくれませんか?」


 確かに、先程まで束ねてあった髪が下りている。流れるような、烏の濡れ羽色とでも言うのか、美しい黒髪に、


(……別にそのままでもいいんじゃないのか)


 と思うライだったが、頼まれたら基本断らない性格のため、特に嫌な顔もせず応えた。


「分かった。少し引っ張るが、我慢してくれよ」


 奈々枝に後ろを向かせ、手際良く三つ編みを結っていく。力加減も絶妙で、あまり引っ張られるような感覚は与えない。

 1分もかからず結い終わり、リボンも雑に扱わず、丁寧に結ぶ。


「一丁あがり、だ。どうだ?」


「あらあら、完璧ですね。優華さんの言った通りです」


「お前の差し金か!」


 脇でニヤニヤしながら眺めていた優華にツッコミを入れる。


「あはははー。まぁ、私にディー姉にミュリエルちゃん、と三人も女の子がいるんだから、自然と上手くなるもんだよー」


「ふふ、またお願いしますね、ライナルトさん」


「…………」


 ヤダ、と言えないところは、そこらの男と同じのようだ。


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