ミュリエルの不安 ~ 払拭
久々の投稿です…いや、忘れてたわけじゃないんですけどね?
「……さてと、これで終わりかな?」
「はい、優華さんのおかげで、当面の生活に必要なものは十分に揃えられました」
夕暮れ前、商店街から優華達三人が並んで出てきた。すっかり打ち解けたようだ。
「良かったですね!あ、わたしも持ちます」
結構な量のためか、ミュリエルが申し出た。
「あらあら、ミュリエルちゃん、あなただと重いですよ?」
奈々枝が微笑みながらやんわりと断るが、ミュリエルは自信ありげに言った。
「大丈夫です、こう見えて、少しは力あるんですよ」
「奈々枝ちゃん、任せてあげなよ。ホントにミュリエルちゃん力持ちだし。血は争えないよね〜」
優華の勧めもあり、奈々枝は苦笑しながら、中ぐらいの大きさの袋をミュリエルに渡す。
「じゃあミュリエルちゃん、これをお願いしますね」
「はい!よいしょ、っと」
最初こそかけ声を入れたものの、それからはいかにも軽々といった感じで歩いていく。
「まぁ、本当に力持ちさんですね」
「だから言ったじゃない。ライ君とディー姉の妹だよ?」
「ふふ、確かにそれなら納得です」
そして、来た時と同じように、無尽蔵かとも思われるほどの話題の量で話しながら帰路につく。
しかし、一つ違う点があった。ミュリエルの様子が少しおかしい。どこか上の空といった感じだ。
(……なんだか、不安な感じだなぁ……。
優華お姉ちゃんは積極的だし、奈々枝さんはすごくお上品だし……あと、胸おっきいし……。
二人とも、わたしには無い魅力がいっぱいあるから……)
「……ちゃん、ミュリエルちゃん?」
「ひゃいっ!?」
呼びかけられたミュリエルは、裏返った声で応えることになった。
「わぁお、びっくり!」
優華はわざとらしく驚く。
「ごめんなさい、奈々枝さん、ちょっと考え事してました……」
「あら、そうですか。でもちゃんと前を見ないと危ないですよ」
「……え、私完全スルー?ちょっと悲しい……」
「「あはは……」」
相手にされなかったのが余程こたえたらしく、優華は微妙に涙声らしさを感じさせ、ミュリエルと奈々枝は乾いた笑いを返した。
その晩、ミュリエルはまだ悩んでいた。
(優華お姉ちゃんや奈々枝さんに無くて、わたしにあるところ……うーん……やっぱり、家族っていうことくらいかなぁ……。
でも、家族だからって、邪険にされたりしないかなぁ……。
ううん、お兄ちゃんを疑ってるんじゃないの。想像したら怖くなっちゃっただけ……)
数分後、ライの部屋。彼は早寝早起きタイプのようで、既に床に就いていた。
コンコン、と控え目なノックの音がした。
「ミュリエルか?開いてるぞ」
起き上がりもせずに応える。ドアが開き、推測通りにミュリエルが入ってきた。
「お兄ちゃん……」
「どうした、ミュリエル。また暗いのが怖くなって眠れないか?久々だな」
小さな電灯を点け、ライは妹に歩み寄る。彼女はもじもじとしながら肯定した。
「は、はい……恥ずかしいことですけど……。あの、一緒に、寝てくれますか……?」
俯き加減に、上目遣いで訊くその姿は、もう少し成長した状態で他の男にやったら、一発で落とせるレベルだ。
が、生憎と相手がライだったため、そうはならない。
「仕方のないやつだ、ほら、来い」
苦笑はしても、嫌そうな顔はしない。本当に家族として大切に想っているが故だ。
そうして二人は同衾することになり、ミュリエルはライに腕枕をしてもらいながら、服にしがみつく格好になる。
「これならいいか?」
「あ、はい、大丈夫です。それじゃ、おやすみなさい……」
しかし、ミュリエルはまだ不安がある。
(お兄ちゃんは優しいけど……本当に、ただ『世話の焼ける妹』としか思ってないんじゃないかなぁ……。もしかしたら今も、実は面倒くさいとか思ってたら……わたし、どうしたら……)
「ミュリエル、まだ眠れないか?」
「……え?」
その思考も、ライの問いかけで途切れた。
「いや、震えていたからな。今までなら、一緒に寝てるだけですぐ眠ってたが、今日はどうした?」
「あ、いえ、大したことじゃないんです……気にしないでください……」
暗闇でライからはよく見えないが、ミュリエルは自分の不安に押し潰されそうに、泣きそうな顔をしていた。
「……そうか。ちょっと失礼」
「わっ?」
ライの言葉の直後、持ち上げられるような感覚。それから肩と背中に触れられるような感触がして、
ぎゅっ
「…………。
っ!?!?!?」
ミュリエルが事態を理解するのは、5秒は経ってからだった。
なんと、ライはミュリエルを抱き締めたのだ。
(おおおおお兄ちゃんがわたしをわたしをぎゅって、ぎゅって!きゃー!)
「だ、大丈夫か?今なんか雷にでも打たれたような勢いで跳ねたぞ?」
「…………!!」
答えられないながらもコクコクと頷くミュリエル。あまりにも大きな驚きに、心臓の鼓動も相当激しくなっている。
「そ、そうか、大丈夫ならいい。
あまりにも不安がってたからな、こうしてやれば多少はいいと思ったんだが……」
多少どころかこうかは ばつぐんだ!状態なのだが、ライにはそれを知りようがなかった。そして、途中で離すことなく、ミュリエルを抱き締め続けたのだった。
(わたし……今、すごく幸せ……!
お兄ちゃんは、きっと、本当に大切な妹だって思ってる……優華お姉ちゃんにだって負けてないくらいに、大事にされてるんだね……)