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ライはハーレム……?

 奈々枝が転校してきてから数日後、最初の土曜日。この日はライ達の学校も休みだ。

 マルトリッツ家一階、居間にて、ライが背伸びをしていた。


「〜〜〜〜っ、ふう。いい朝だ」


 ジャージ姿で、今さっき起き出してきたことが分かる。

 時刻は6時、特に普段の起床時間と違いは無い。

 ライは、階段を見て、気配がしないことを確認してから冷蔵庫を開けた。


「朝は、これだよな」


 取り出したのはりんごヨーグルト。彼のお気に入りの一つだ。

 一口ずつ味わうように食べ、ゴミはしっかり分別する。


「よし、今日も一日……ん?」


 トン、トン、と階段を降りる音が聞こえてくる。向かってみると、薄桃色のパジャマを着たミュリエルが、目をこすりながら降りてきていた。


「お早う、ミュリエル。足元、気をつけろよ」


「……うにゅ?」


 声をかけられて初めて気づいたのか、降りる足を止める。

 そして一秒ほどじっとした後、眠そうな顔のまま、にへら、と笑った。

 瞬間、ライの中の何かが危険を知らせた。が、残念ながら僅かに遅かった。


「うおっ!」


 なんと、ミュリエルは跳んだ。階段の途中から、ライに向かって。

 彼が、尻餅をつきながらもしっかりと抱き止めていなかったら、どうなっていたことか。


「こら、危ないだろ、って……」


「お兄ちゃ〜ん……にゅふふふ〜……大好きです〜……」


 抱き止められた状態のまま、頬ずりするミュリエル。ライは諦めムードだった。


「またか……。こいつ、寝ぼけてる時は色々躊躇しなくなるからなぁ……」


 呆れながらも、甘えてくる妹の頭を撫でてやり、眠るか起きるかを待つ。実にシスコンだ。





 数十分後、ディートリンデも起き出してきた……が、今度はミュリエルが固まっていた。


「……どうした……?」


「お早う、姉さん。まぁ……たまにあることだ」


「あうぅ……は、恥ずかしい、です……寝ぼけてたからって、抱きついて、ほっぺをすりすりだなんて……恥ずかしくて死んじゃいそうです……」


 言葉の通りに恥ずかしいのだろう、顔どころか首や耳まで真っ赤だ。


「休みの日くらい、早起きせずともよかろうに……」


「そういうのができない良い子、それがミュリエルだろ」


「確かにな」


 雑談しつつ、ライは洋風の軽めの朝食をこしらえた。

 食パン二枚に目玉焼き、そしてサラダという簡単なものだ。

 三種類のジャムを用意し、飲み物も三人分。ミュリエルが牛乳、兄と姉は紅茶だ。


「ミュリエル、そろそろ立ち直れ。せっかくの朝飯が冷めるぞ」


「……はい……」


 まだ赤面したままながら、ゆっくりと食べ始めるミュリエル。

 しかし、ちらちらとライを見ている。


「ん?」


「っ!?」


 と思えば、逆に見られるとまたうつむいてしまう。


「……そんなに恥ずかしいなら見なくてもいいだろ……」


 呆れたようなライの言葉に対し、ミュリエルはうつむいたまま首を横に振って応えた。


「……まぁ、いいけどな」





 やたらと落ち着かない朝食が終わる頃には、ミュリエルもなんとか普通に戻っていた。


「ごちそうさまでした。そう言えば、お兄ちゃん、お姉ちゃん」


「「ん、なんだ?」」


 なにげにハモる兄と姉。


「今日は、優華お姉ちゃんと約束があるので、9時には出かけます」


「ああ、分かった。気をつけてな」


「あまり遅くなるでないぞ」


 軽く答える二人。

 それからミュリエルは外出の準備をし、食器の片付けはライが済ませた。





「おはようございます、優華お姉ちゃん!」


「やっほー、ミュリエルちゃん。時間通りだねー」


 まぁ、待ち合わせ場所が家の前だから当然と言えば当然だ。

 優華は、暖色系の明るい色合いの服を着て、ジーンズを穿いていた。動きやすさを優先しているようだ。

 ミュリエルは、青系の服で、くるぶしまであるロングスカートを穿いている。


 そしてそこにはもう一人、奈々枝がいた。

 白を基調にした服に、スカートは膝あたりまである。


「奈々枝ちゃん、この子がミュリエルちゃんだよ。ライ君の妹なの」


「ミュリエル・マルトリッツです、よろしくお願いします!」


「月夜宮 奈々枝です。こちらこそ、以後お見知り置きを」


 どうやら顔見せが第一の目的だったらしい。

 二人はにこやかに握手をし、第一印象は良好のようだ。


「よーし、積もる話は道中でするとして、買い物に行こー!」





 一方その頃、マルトリッツ家では。


「今日はゲームでもやってるかなー。やっぱりロボットものが一番だ!」


 と、ライが遊んでいた。そりゃ、色々と強い彼だが、根っこの部分は普通の高校生なのだ。遊びたくもなろう。





 ……女三人寄れば姦しい、とはよく言ったものだ。一体どこにそれほどの引き出しがあるのかと思うほどに話題が尽きない。


「それにしてもライ君、本格的にハーレム状態になってきた感じだよね」


 唐突に、優華が切り出す。


「ハーレム……ですか?」


「そ。本人に自覚あるか分かんないけど」


 両手を頭の後ろで組み、呆れたような様子だ。と、そこにミュリエルからの質問が入る。


「はーれむ、って何ですか?」


「え?あー、えっとね……」


 しばらく視線を泳がせてから、優華はなるべくソフトな言い方を選ぶ。


「ある誰かが好きな人が沢山いること……かな?

ライ君だったら、私に、ミュリエルちゃんに、奈々枝ちゃん、とか」


「え、私も入るんですか?」


 驚く奈々枝。が、特に不快だとかではないようだ。


「ん、冗談だけどね。でも嫌いじゃないでしょ?」


「ええ、それは勿論。見た目はちょっと怖いですが、優しいですし」


 微笑みながらそう言う。どうやら本心からそう思っているようだ。

 そこに、ミュリエルからまた質問が入る。


「えっと……その『好き』って、……ち、ちゅー……とかしたいくらい、ですか……?」


「へっ……あー、うーん……そう、かな?」


 途中聞き取りづらかった箇所があったからか、優華は返答に困ったようだが、一応肯定した。するとミュリエルはしきりに頷き始めた。


「じゃあ、お兄ちゃんは『はーれむ』じゃないです、よね……。私知ってます、兄妹でそういう『好き』って気持ちは、いけないんですよね」


 つまりは、自分も奈々枝もそういう『好き』ではなり得ないからハーレムではない、と言いたいのだろう。

 しかし、それは自爆だったようだ。


「そーねー……でも、いけないって分かってるだけで、好きは好きでしょ?」


「はいっ!……あっ」


 ついうっかり力強く返事をしてしまったミュリエルは、釈明を始める。


「え、えっと、あの、その……す、好きですけど、多分、家族として、だと思いますっ……」


「えー、でもでもー、前に『お兄ちゃんのお嫁さんになりたいですー』って言ってなかったっけー?」


「あ、あうぅ……」


 優華の言葉にたじろぐミュリエル。実際にそう言っていたようだ。

 どう言おうか迷い、涙目になってきたミュリエルだが、突然優華が抱きしめた。


「意地悪してゴメンねー、ミュリエルちゃん可愛いからついつい……」


「え、わっ……」


 そんな光景を、奈々枝はただ微笑んで見ているだけだった。





 同時刻、マルトリッツ家。


「むう、風邪ひいたかな……」


「どうした、ライ?」


「いや、なんかくしゃみが……。三回連続で出たら収まって、またしばらくしたら三回連続……と」


「ふむ……。たしか、くしゃみの数での占いがあったような……」


「『一謗り二笑い三惚れ四風邪』ってやつか?

……だとしたら、大方優華かミュリエルか……へくしっ、ふえくしっ、ぶえっくしょいッ!」


「また三回か。まぁ、モテて悪いことなどそうそうあるまいよ。我慢我慢」


「他人事だと思って……」


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