雨とアスファルトと彼女の恐い眼
傘と二人と灰色の景色。
そんなもん、きっかけだ。
朱色の顔はいつだって理解し合おうとしなくちゃいけない。
「なぁ志賀さん」
雨が降っている。
彼女は笑っている。
「…俺と一緒でいいの?」
しとしと降っている。
「良いよ。恥ずかしいけど。染枝君は、大丈夫?」
風が少し吹いて、色んな物を揺らした。
たとえばセミロングの髪だとか、短いスカートとか。
「オレは全然良いよ!むしろ歓迎してるけど、やっぱ、恥ずかしいな」
志賀は笑った。
染枝だって笑った。
全く、雨だってのに楽しそう。
「…男の子と相合い傘なんて、わたし初めてで緊張する」
「ははっは」
染枝だって初めてだった。
笑うしかねー。
水たまりを、軽く飛び越える志賀。
「わたし達って、家とか近いのにあんまり仲良くないよね」
志賀の顔色。
「志賀ん家って、俺ん家に近いの?」
少しだけ赤くなって、そっけなく。
「近いんだよ」
雨とアスファルトと彼女の恐い眼!!
「そっか」
「そうだよ」
二人の目線はまだ交わらない。
しばらく、二人は景色に溶け込み。唐突に
晴れた。
「あっ!晴れたよ!」
「すげー晴れたな。」
ホントすげー晴れた。快晴。
染枝は少し寂しそう。
春の陽射しが、優しく世界を焼いていく。
傘を畳む
「染枝君」
志賀はしっかりと見つめている。
「どした?」
初めて目が合う。
ほんの数瞬。
滋賀は少し笑っている。
「メシおごって」
「はぁ!?」
晴れている。
春である。
おまけに風吹いて揺れる髪である。
滋賀は少しマジになって。
「メシおごって」
「2回め!?」
春の日の二人の笑顔だって
きっかけに過ぎない。
抱きしめてからじゃあ、わからなくなっちまうからよぉ。