気付いてないのは誰ばかり?
いまだ、と意を決して上目遣いをした日には、
「あ? なんでいきなり睨むんだよ」
と怒られた。
ここぞとばかりに、
「昨日肉じゃがを作ったんだけどね」
と家庭的なところをアピールをした日には、
「いつも弁当が、白ご飯にふりかけのやつがよく言うよ」
と一蹴された。
シャーペンをハート柄に変えた日には、
「そういえばお前って、どことなく人体模型に似ているもんなー」
と呟かれた。
朝早く起きて髪を巻いた日には、
「今日寝ぐせすげーな。お前って実は毎朝苦労してんだな」
と同情された。
「ここわからないから、教えてくれない?」
と数学の問題を聞いた日には、
「わかんねえ。俺でわかんねえってことは、お前がわかるはずないよな」
と馬鹿にされた。
美紀と一緒に、一度は履いてみようとルーズソックスを履いた日には、
「お前が履くと包帯巻いてるみたいだな」
と憐れまれた。
何軒もまわって手に入れた流行の鞄を提げていった日には、
「それ、お前が持っているとでかいチョコレートに見えるな」
と感動された。
ほんの少しだけ香水をふっていった日には、
「来る途中に花壇にでも突っ込んだのか?」
と心配された。
ラッキーカラーの黄色いマニキュアを塗っていった日には、
「お前、みかんの食べすぎじゃねえ?」
と呆れられた。
制服のスカートを短くした日には、
「暑いの? ……大丈夫。お前はぽっちゃりであって太くはないから」
と慰められた。
改札で引っかかっているのを見られた日には、
「お前、どうせ定期と間違えて板チョコでもいれたんだろ?」
と笑われた。
授業中に居眠りしていた日には、
「よだれ垂れてたし。お前って夢まで食い物なんだな」
と感心された。
この男ほど鈍感なやつを見たことがないと、恨みがましく見つめた今日には、
「お前ほどじゃない」
とため息をつかれた。
1000文字小説です。
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