表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/21

1日目 AM11:45−スタンド・オフ−

1日目―午前11時45分。空域不明・F-2C(雷電01)



フットバーを蹴り付け、右横転で撃ち下ろされる火球の斉射を避けた。機体上面と土手っ腹ギリギリを、挟み込むように火の玉が掠め去っていく。


S字スプリットで射線から逃れ、上昇に移るがまたもレーダー警報が鳴り響く。今度は低空から12発もの火球が撃ち上げられてきた。敵もコツを掴んできたのか、火球の炸裂距離が段々と近づいてきている。ギリギリ全弾機体を掠め、300メートル手前の宙空で一斉に自爆した。


火球の衝撃波に翻弄されながらも、バランスを回復させたF-2Cに、周囲を編隊を組んで旋回する【敵騎】の壁が迫る。【敵騎】の首が旋回半径内の支援戦闘機に一斉に向けられた。


赤松はレーダー警報の大合唱に舌打ちし、ハイスピードバンクで右旋回。Gに耐えつつ機首を上げれば、今度は3騎編隊×4、12騎のドラゴンが顋を開いて待ち構えいた。


レーダーコンタクトの直後、赤松は高度を取る間も無くドラゴンの大部隊に取り囲まれ、空と地表との間で狩り立てられていた。


獲物を取り囲んで退路を断ち、上下で挟み撃ちにする。これが〈敵〉の戦術らしい、完全に頭を押さえられてしまった。いくら低速操縦性に性に優れたF-2Cといえど、四囲を囲まれ、超音速のアドバンテージを数で塞がれてしまっては手も足も出なかった。


高度がぐんぐん落ちていく―――このままでは撃墜される。


J/APG-2レーダーの処理能力を超えた数の敵シンボルマークが入り乱れるHUDを睨み、脱出の可能性を必死に探しながら、いつか見たドキュメンタリー番組を思いだした。


敵の有機性レーダー波はイルカや蝙蝠などが放つ、反響測定用高周波の特大版のはずだ。ならば【敵騎】が手の込んだ対電子防御機能を備えているとは思えない。さっきから逆探知装置が受信している電波周波数も、多少個体差はあるが一種類だけだ。そして、胴体下部にはAN/ALQ-99TJS(戦術ジャミングシステム)ポッドを装備している…赤松は口許に獰猛な笑みを浮かべた。


空中衝突の危険があったが意を決して機首を起こし、アフターバーナーに点火した。下方の編隊が一斉に首を回しF-2Cを狙いすました。脅威予測対抗システムが、パイロットに視覚と音声で回避行動を求め喚き散らす。しかし位置測定の断続波が照準固定の連続波に変わるまで、胃を締め付ける恐怖に耐えなければならない。


警報ブザーがレーダー照射を報せる短音から、ロック・オンされた事を示す長音に変わった。


「今だ!」


赤松は機体をロールさせながらIRジャマーとチャフ・カートリッジを同時に射出した。胴体のディスペンサーからアルミコーティングのグラスファイバー片が打ち出され、金属の雲を形成し低空のドラゴン編隊の〈ロック・オン〉を一手に引き付けた。


一方、2200カンデラの光を放ち降り注ぐフレアーを反撃と誤認した【敵騎編隊】は、チャフの雲へ火球を闇雲に撃ち放つと散開して回避行動を始めた。


6時方向からのロック・オンが全て消え、後ろを気にする必要が無くなった。一方上空では12騎のドラゴンが進路を遮るかたちで集合し始めた。


赤松はAR(逆探装置)が敵性電波を関知するなり、統合電子戦システムのEW(電子攻撃)モードを立ち上げた。周波数をドラゴンの照準波に合わせ、フルパワーで発信。妨害電波でF-2Cの正確な位置が分からなくなったドラゴン編隊は、トライアングルフォーメーションの頂点、【隊長騎】の号令の元、蒼白い光を放つ長槍を抜き放ち、一斉にダイブして反航戦を挑んできた。


敵ながら素早い決断に感心しつつ、赤松は最後の一手に出た。空対空モード、中距離射程ミサイルスタンバイ。


HUDにAIM-7未装備のため動作不可と表示されるが、コンソールに【訓練】と打ち込み、強引にミサイルソルダート(ミサイル誘導優先)モードで照準レーダー波を浴びせかけた。HUD内の12騎全てにこけ脅しのロックオン・サインを刻んだ瞬間、先頭の【隊長騎】が両手を上下に振るなり、編隊がパッと四方に散開した。


ある種類の蛾には、天敵の蝙蝠が発する超音波を感知する機能を持つ。蛾は特殊な構造の鼓膜をもち、蝙蝠の捜索用超音波を探知すると、身を翻して逃げるのだ。イルカや鯨にも同じ機能があると言う。ならばドラゴンにも逆探装置に相当する器官がある筈と踏んだのだが…案の定、というより想像以上の効果であった。同時に複数騎をロックオンされたのに動揺し、傍目にも必死に回避機動を取っているのが分かる。このまま無事包囲網を抜けられるかに思えた。


接近警報、ボギーズ・ヘッドオン!


【1騎】だけ回避行動を取ることなく突っ込んできた。【列騎】と思われるドラゴンが追いすがり制止しているようだが、相棒は構わず長槍を振りかざした。


似たような奴は何処にでもいるんだな…。


【敵騎】との接触まで4秒、遂に【列騎】が説得を諦め離脱した。HUD内のロックオンサインが明滅して消え、自動的にガン・モードに移行した。中射程ミサイルの最小射程ミニマムレンジを過ぎたのだ。


ただ包囲を突破できれば良いと考えている赤松は、危険を犯してまで【敵騎】に機関砲の軸線を合わせようと思わなかった。ボアサイトモード(目視照準)で【敵騎】を掠める程度にトリガーを引く。5発に1発の割合で含まれる曳光弾が、毎分1000発の発射速度で一筋の赤い火線となって撃ち出された。目標の傍を掠め【敵騎】はロールを打って射線から逃れていく。


直後、敵があり得ない行動に出た。クラダーが長槍片手に【乗騎】から飛び降りたのだ!驚愕に固まるパイロットを他所に、主人を失ったドラゴンは翼をすぼめ、F-2Cの脇を猛スピードですり抜けて行く。


それに気を取られた赤松の反応が遅れた。一際光を放つ長槍を振りかざし、コクピットに迫るクラダー。咄嗟にインテイクへ吸い込みを避けるため、スロットルを絞り、トリムスイッチで機体を横滑りさせた。


間一髪、キャノピーへの直撃を避けた1000分の1秒、風防越しにクラダーと目が合った。男…だったと思う。複葉機時代のような古風なデザインのゴーグルに必要最低限の軽量そうな甲冑を着込み、長い銀髪を後ろで纏め、左頬からこめかみにかけて三日月を連ねた様な赤い入れ墨。何故か肩当てが深紅にあしらわれていた。


おおよそ高度1万フィートを飛び回る出で立ちではないが、逆に相手もジェットヘルメットに酸素マスク姿の赤松に驚いていた。


機体に衝撃、HUDに油圧トラブルを示す警告ランプが明滅しはじめた。


最初はクラダーが垂直尾翼にでもブチ当たったかと思った。赤松がシート越しに首をねじ曲げると、胴体中央の各種点検パネル部分から棒が生えているのが見えた。クラダーは置き土産に槍を機体に突き立て、油圧系統の1つを潰したのだ。ギョッとしながらも油圧を緊急系統に切り替えると警報は収まり、各システムは正常通り機能を取り戻した。あと数センチずれていたらコンフォーマルタンクをやられているところだった。


とにかく命を懸けたクラダーの一撃は徒労に終わった。気が進まないが、バックミラーでクラダーの姿を探した凍りついた。クラダーは背中からドラゴンと同じ翼を広げ、優雅に空中を旋回していたのだ。


一瞬、パラシュートのような緊急脱出装置の一種かと合理的な考えが浮かんだが、時折翼が羽ばたくのを見て、その考えは間違いだとわかった。クラダーはそのままゆっくりと浮揚すると、下で待ち受けていた【乗騎】に華麗にタッチダウンを決めた。


赤松の理性が限界を超えた。何事か喚き散らし、スロットル全開で眼前の雲海へと突入した。再び往路と同じく航法ナビゲーションシステムがエラーを表示したが、上昇角度を感覚で保ち、最大速度で飛ばし続けた。とにかくこんな訳の分からない所から一秒でも早く離れたかった。


唐突に雲が切れ、キャノピーいっぱいに蒼穹が広がり、眩しい太陽光がバイザーに射し込んだ。


航法システムが回復し、鳴り響く失速警報で赤松は我に返った。いつの間にか上昇限度に迫っていた。エンジン出力を絞り【追跡騎】を警戒してややバンク気味に水平飛行に移った。【敵騎】は追ってこなかった。


思い出したように無線機のチャンネルをオープン、途端AWACSの泣かんばかりの呼び掛けが飛び込んできた。


『…こちら富嶽27、雷電01応答せよ。貴機のプリップレーダーに映らぬ。受信しているならば方位0−0−9へ旋回せよ。雷電01、こちら富嶽27、緊急周波数ガードチャンネルで貴機に呼び掛けている。聞こえているならチャンネルシルバーで応答せよ。繰り返す…』




同時刻・国端新島15DPC(第15師団司令部)


「なんですかそれは!?」


指揮所天幕に田中陸将の怒声が響き渡る。天幕入口に立つ立哨が驚き思わず振り替えった。普段は穏和だが作戦指揮は冷徹。彼は師団長の怒鳴り声など、今まで聞いたことがなかった。


発端は海外メディアの【誤爆報道】直後、統幕議長からの直通電話が始まりだった。「那覇基地の全FS飛行隊の飛行停止」確かに墜落事故では原因の解明まで同機種の飛行停止はあるが、それは平時の判断だ。現場を扱う田中にとって承服できない命令だったが、総理命令では彼も従ざるをえなかった。


時の大口稔総理(当時)は、震災に次ぐ騒乱からの復興特需に陰りが見え、新たな経済政策も打ち出せず、次期総裁選挙での危機感を募らせていた。そこで極東情勢の不安定化を挙げ、対策として武器輸出規制を緩和し、防衛産業の活性化と世界の武器市場への新規参入を政治公約に掲げていたのである。故に日本側が領土問題で稀に見る強硬策を打ち出した理由の1つとされていた。


しかし、国端新島での戦いで、日本製兵器は八面六臂の活躍を見せたが、やはり冷戦以降、日本の防衛大綱が本格的な軍事侵攻からテロなどの低烈度紛争対処にシフトし、組織・装備を改編してきたツケが表面化した。戦車など一部の重装備は中国製兵器を大きく凌駕するも、輸出解禁兵器第一段として期待されていた装輪装甲車やHLV(重装甲機動車)が、次々撃破される事態が発生したのだ。


肝心な主力セールス商品の売れ筋に一抹の不安が過り始めた直後、そこへ【誤爆報道】である。これ以上、日本製兵器のイメージダウンは許されなかった。


この時、内閣は既に北中国首脳との予備交渉に入っており、全世界がアジアの戦争の行く末を注視するなか、午後には戦後の青写真を世界に配信する筈だった総理以下、政策スタッフの間に激震が走り、野党と外務省からの突き上げもあって、飛行禁止処置は最高司令官名義で異例の早さで申し入れられた。


ただちに航空調整官の間垣幸三一等空佐が、師団航空統制所と航空支援業務隊本部との間を奔走し、自衛隊の潔白を証明したが、既に内閣は戦闘の動向に関心が向いていなかった。【報道誤り】の報告は短時間で総理に伝えられたが、肝心な【命令解除】を忘れるというあり得ない事態が発生したのだ。


「防衛大臣は何と言っているんですか!?」


『担当次官が【あと1時間で戦争は終わりだから急を要さない報告は寄越すな】と取り合わないんだ。危機管理センターに何度もFAXを送っているがなんの反応もない』



「馬鹿な!?【まだ1時間】です!それに停戦であって戦争が終わった訳じゃない!敵はまだ十分な戦力を維持しています、何がどう転ぶか分からないんですよ!」


実戦を知っている指揮官たちは足枷を外さんと必死に抗う。何だって今ごろになって口を挟みやがる!?


『そんなことは分かってる!今から俺は官邸に乗り込んで大臣に直談判に行く!』


「頼みます部屋長、ラマダンの悲劇の再現は御免です!」


『任せろ、田中2号生』


お互いを防衛大時代の肩書きで呼び合い、高級指揮官は受話器を置いた。


後の検証で、防衛省より再三命令解除の是非が官邸に寄せられたが、元公認会計士出身という経歴の総理には自衛隊の指揮系統について理解が足りなかったと見え、肝心な命令権者はそのまま実務者会議の準備に没頭してしまったとある。当時官邸には終戦ムードが漂い【飛行禁止解除指示伺い】は危機管理センターの片隅へ追いやられてしまったのだ。


後にこれが大惨事に繋がると知らずに…。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ