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1日目 AM10:05−障害敷設−

同時刻・国端新島中央地区県道66号線。国道3号線との交差路(第2交差路)より300メートル付近。



先行する護衛の普通科分隊から敵影無しとの連絡を受け、中央即応集団・増強施設中隊所属、小清水隼人三等陸曹は部下に作業開始を命じた。


国端新島の道路網は3本の国道とそれから枝分かれする複数の県道からなる。国道は総全長280キロの2車線舗装道路で、島外周を囲みそれぞれ南端、北端を頂点に東シナ海側が1号線、太平洋側が2号線、そして島中央を南北に伸びる国道3号線である。そして未舗装の砂利道・県道が各国道から枝分かれし、各地を繋いでいた。


国道3号線は第15師団司令部がある海岸地区の国端西海岸道路と国道2号から分岐(海岸三叉路)し、国端富士を回り込み北側海岸線まで17キロの地点まで作られていた。本来は1号線と合流させ南北横断道路とする計画だったが、2013年の中国政府(当時)の干渉で工事がストップし、それ以来放置されたままだ。


小清水三曹の任務はこの先にある暫定呼称・第2交差路の地雷閉鎖である。国端富士に立て籠る北中国軍部隊が、破れかぶれの司令部強襲を仕掛けてきた場合に備えた処置であった。


「班長の指す方向、北の方角。敵の方向この方向〈富士の台〉距離300」


2013年に「国端新島第1期整備計画」が中止されて以来、測量地図意外まともな地図が作られず、今日まで多くの地名が未決定のまま放置されていた。その為「ほむら作戦」計画時に、国土交通省の無意味乾燥な数字表記と、「第○○高地」「△△の台」など、自衛隊中央地理隊が暫定的に標した戦略呼称が使われているのだが、分かりやすい反面まるで演習場である。


「埋設数、対戦車及び対人地雷各20個。その内各10個を活性化処置」


活性化とは、同じ箇所に地雷を複数埋めたり地雷同士を信管で繋ぐなどして、敵の地雷処理を難しくすることだ。


「1番手、エンピ(スコップ)運搬。2番手、爆薬運搬。3番手、雷管と信管運搬」


命令一下、4人の部下が各々の持ち場に取りかかる。本来は敵方警戒に1名要るが、護衛がいるので今回は必要ない。


小清水は27歳の元サラリーマン。東京で中国関連の大手ゼネコンに勤務していたが、中華内戦の煽りで倒産。経済打撃で再就職に難儀していたが、妻子と家庭を守るため24歳にして自衛隊に入隊した。

当時防衛省は中国との有事に備え、隊員の大幅増員を打ち出していたが、インドネシアPKFの影響で入隊希望者が激減、募集担当者は頭を抱えていた。そこへ、小清水が履歴書片手に現れたのである。

大卒で測量資格を持ち、ある程度社会経験も積んでいる。担当者は狂喜乱舞し、陸曹候補士として採用された。中国のせいで失業したが、同時に再就職もできた。皮肉な話だと彼は笑う。


「1番手、この位置に穴を掘れ。2番手、3番手は爆薬に信管を取り付け。4番手は1番手の支援」


1番手・中田肇陸士長がエンピで穴を円型に掘る。

彼は今月初めに20歳になったばかりの青年で中隊のパソコン指南役だった。

彼は自作したパソコンを中隊事務室で電源を繋いだところ、全隊舎のブレーカーを叩き落とした伝説の持ち主である。


2番手・山田光照陸士長と3番手・三国寛二陸士長が信管をセットした地雷を穴に入れていく。

山田は19歳のバイクマニア。中隊の随一のバイク相談役で、同じバイク仲間の陸曹達からの信頼も厚い。

ある日、バイクで外出しようと営門から出た直後、一時不停止で免停を喰らった伝説の持ち主である。


相棒の三国は山田と同期で、同じく19歳。高度な歌唱力の持ち主で、宴会で二次会にカラオケでもいこうモノなら彼の独壇場だ。

去年の中隊の忘年会で、中田がYouTubeから拾ってきた替歌、「愛のメモリー」改め「ハゲのメモリー」を振り付けつきコーラスで歌ったところ、皆拍手喝采の大受けだったが、歌詞と身体的特徴が合致する中隊長の目に、青い炎が宿っていることに彼は気がつかなかった。

かくして彼は、年末年始祭日全て警衛(持ち回りの門番警備)という伝説の持ち主となった。


地雷を埋める4番手・汐見克己二等陸士は去年9月に入隊したての右も左も分からない18歳。とにかく何でもやってみようとする克己心の強い少年で、3人の先輩からも目を掛けられている。

しかしそれが空回りするコトがたまにキズで、中隊配置後初めての演習の打ち上げで、いきなりテキーラと焼酎のカクテル一気飲みに挑戦し、翌日帰りの高速道路でトラックの荷台から首を出して嘔吐するという伝説を既に打ち立ていた。


以上この4名が「小清水班」、別名「レジェンド・オブ・リーグ」の面子である。


彼等はただ黙々と掘る、入れる、埋めるのスリーアクションを繰り返す。何事も滞りなく全行程の半分が終わった頃、普通科分隊の指揮官、鴨大介二等陸曹が通信手を引き連れてやって来た。


「やあ、お疲れ。何か無線で大騒ぎしてるよ」


鴨二曹は42歳のベテランだが、入隊が26歳と遅く、昇任も遅れていた。「ほむら作戦」発動直前に昇級し「縁起悪いなぁ」(自衛官の殉職による特別昇任は、警察官や消防士が2階級なのに対し通常1階級)と苦笑していた。


小清水が先任士長の中田を呼び、無線機の外部スピーカーに耳を済ます。


『…り返す。本日1230時をもって日米・北中政府間協議で停戦が発効される。指定された警備部隊を除く各作戦行動中の部隊は、積極的な接敵を避け、現状維持に努められたし…』


まず、最初に意味を理解したのは中田だった。彼は跳び跳ねながら班員をジェスチャーで集合を掛ける。


何事かといぶかしむ彼らがサイレント映画のコントよろしく、喜色満面で躍り狂うのは簡単だった。状況中なので流石に馬鹿騒ぎする真似はしないが、その様子に通信手が苦笑していた。小清水も沸き上がる嬉しさと葛藤しながらも口元が弛むのを押さえ切れなかった。


戦争が終わった?こんなクソみたいな島から家に帰れるのか?



「おい坊主達、まだ状況終了じゃないぞ。あと1時間55分ある」


鴨二曹の冷ややかな一言が小清水を現実に引き戻した。


「全員作業に戻れ」


皆一斉に顔に?が浮かび上がる。中田が中隊本部に「作業を続けるか問い合わせてみては?」と具申してきたが一蹴する。


そもそも地雷原構築や橋梁爆破の許可命令権者は師団長クラスだ。現場判断で止めれる話じゃない。


「活性化も予定通り行う。サッサと動け」


それでも持ち場に戻りたがらない彼等に、小清水が蹴りでも入れようかと腰を上げる前に、鴨二曹が血も凍る言葉を投げ掛けた。


「16年のインドネシアで俺も君達みたいにドンチャン騒ぎをしたよ。代償に、こーなった」


おもむろに鉄帽を外し、額から左側頭部にかけてケロイド状に爛れた傷跡を見せた。


2016年の9月。インドネシアイスラム革命軍から停戦を持ち掛けられたUNMI(国連インドネシア派遣部隊)司令部は、実効性に疑念を呈す情報部の警告を無視しし、9月の断食の月にかけて「ラマダン停戦」と呼ばれる停戦決議を受託した。


しかし、布告後12時間で革命勢力の大攻勢が勃発。

長引く活動で疲弊していた各国派遣部隊は、停戦合意のお祭り騒ぎから一転、大惨劇に見舞われた。


ダンハン空港で仏軍部隊と共に包囲された日本隊は、朝鮮半島から緊急転出した米海兵隊に救出されるまでの4日間、多数の犠牲者を出す事態となった。鴨二曹は空港警備隊の生還者だったらしい。


「美味い話は疑ってかからないと、人生思いがけずに【状況終了】になっちゃうよ〜?」


小清水は会社員時代の取引先の非道を思い出した。


約束を守らない。契約を平気で反故にする。納期を無視する。


勝てば官軍・海外の目など気にしない中国人なら、停戦決議を反故にするくらいやるかもしれない。


頭上で爆音が轟いた。

全員が思わず首を竦め空を見上げると、いつの間にか巨大な積雲が頭上を覆っていた。爆音に混じり、ジェットエンジンの金切り音も聞こえる。上空では空中戦でもしてるのか?


「何か落ちてくる!」


空を指差して汐見が叫んだ。


小清水は最初、撃墜された戦闘機かと思った。それは雲の中から、片翼を失い「破片」を撒き散らしながら、火達磨になって墜ちてきた…自分達の頭上目掛けて。


「退避ー!」


鴨が今までののらりくらりとした口調から一転、唖然と立ち尽くす施設科達を鋭く一喝。


我に返った小清水班達は、分隊長を残し一斉に走り出した。慌てて後を追う小清水の背後に、燃えながらゆっくりと墜ちてくる「翼」が迫っていた。




「エンピ2本・地雷搬送箱が破損。その他人員、装備共に異常無し」


周囲に立ち込める肉の焼ける臭いに、顔をしかめながら報告する中田士長に、焦げ跡だらけの小清水は気もなく「了解」と応える。


「班長、何ですかね、コレ?」


「見た感じそのまんまじゃねぇの?」


彼の眼前、地面に打ち据えられた直径2メートル前後のクレーターの底には焼け焦げた〈死骸〉が横たわっていた。


明らかに飛行機の類いではない、ワニ擬きの爬虫類に蝙蝠の翼を着けた様な体躯。多分撃墜される前は全長15メートル位はあったと思う。今は体積を半分以上削り取られ、自ら孔けた墓穴に収まっている。


微かに漂うコルダイト火薬の匂いから、この死骸が敵か友軍機か判らないが、戦闘機と交戦して撃ち落とされたのは間違いないようだ。


「小清水くん、これ人が乗ってたみたいだよ」


背後から鴨が消し炭を手にやって来た。

何で解るのか聞こうとして凍りついた。手にした消し炭は人間の腕だったからだ。


「なに手に持ってんです!?」


「気にしない、気にしない。死体は噛み付かないし、銃を撃たない。フム…サイズの割に軽いな?この籠手みたいなの甲冑かな?」


鴨二曹とは出会って2日の短い付き合いではあるが、未だ人物像が謎だ。下らない洒落を連発している昼行灯かと思えば、時折鋭い前線指揮官の片鱗を見せる。

これは彼の部下も同じらしく、鴨二曹の二面性に皆辟易していた。PKFから帰ってきてからこんな調子らしいと、誰かが言っていたが真相は分からない。


「軽いけど頑丈みたいだね。外は焦げてるが中身は無事だ」


鴨が片手で消し炭から籠手を器用に外し始めた。表面が真っ黒に炭化した籠手の下から細い綺麗な腕が現れた。とても華奢で所々鱗のような模様が入っており、病的なまでに真っ白だった。


「細すぎる、この人女だったみたいだよ?それもすごく若い…」


それを聞いた小清水以下施設科の面々は気分が悪くなった。鴨の部下達も渋面を浮かべてる。


「そんなモン、早く捨ててください!」


「コレが何者か興味は無い?」


再び上空で爆音。

空中戦はまだ続いているらしい。


「我々は作業に戻ります!」


鴨はやれやれと肩を竦め、腕をクレーターに投げ入れると、死体から外した籠手を自分の腕に填めながら配置に戻っていった。

後に続く通信手がドン引きしていたが、彼は一向に気にする様子はなかった。


「作業再開!」


今度は渋る隊員はいなかった。素直に各々の持ち場に戻っていく。


その様子に満足した小清水の鼻孔が肉が焼ける臭いを再認識し、今までの緊張と衝撃の連続で気にならなかったが、嗅覚が耐え難いと悲鳴を上げた。


「…の前に、穴を埋めろ!」


今度は皆、露骨に嫌そうな顔を返した。

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