彼の様子がおかしい
下校途中、私と彼は手を繋いで歩いていた。
「今日はこれがあって、あとね」
主に私が喋る形で色んなことを話していく。
彼は文句も言わず、むしろあくびをするライオンみたいに、優しい顔をしていた。
たまに「ああ」とか、「うん」とか、合いの手を入れてくれるので、嬉しくなって私は足取りを軽くする。
するとその時、
「え…」
彼が思わず声を出した。
私はどうしたんだろうと見つめると、前から来た黒ずくめの男性を凝視しているようだった。
この暑い中、長袖を着ており、歳は20代くらいだろうか。
何か変な感じがするのだが、彼は違うことに注目しているらしく、私を後ろに庇う。
私は訳が分からす、混乱していると、黒ずくめの男性とすれ違う。
しかし、彼は足を止めたまま、警戒心を解こうとしない。
天敵に出会ったかのように、鋭い目つきとなる。
「どうしたの?」
私は小声で恐る恐る聞くのだが、彼は無言だった。
額には汗を浮かんでおり、私の入れない雰囲気だった。
しばらく沈黙が続き、彼は動こうとしない。
太陽が陽を伸ばして、早く歩けと命じてくるのだが、2人は汗を垂らしながら、静かにしている。
私は焦れて、彼の袖を引っ張ると、手を叩いて安心させてくる。
私がちらりと振り返ると、男性の姿はもう消えていた。
彼がようやく身体から力を抜き、安堵の息を吐き出す。
それから顔を押さえると、私に言ってくる。
「今の人について言うなよ」
「…え? どうして?」
「どうしてもだ。もしかしたら…その」
私に言おうかどうしようか迷っているようなので、彼の腕を心配そうに掴む。
彼は決意したのか、小声でそっと言ってくる。
「足音がなかった。もしかしたら…暗殺者かもしれない」
「あ…!!」
「しっ!!」
彼が周りを警戒し、素早く視線を走らせる。
まだ緊張は解いていないようで、彼から熱いものを感じる。
私は彼が本当のことを言っていると信じ、小声で言う。
「分かった。内緒にする」
「おう。お前を信じる」
ぎゅっと手を握られたので、私も握り返す。
私が不安そうに視線を動かしたからか、彼は努めて明るく言う。
「この話は終わり。それよりも…」
「それよりも?」
「えっと、その」
彼が言い淀むなんて珍しいと思っていると、彼が急に険しい顔つきとなる。
私は何事かと注目したが、彼は黙ったままだった。
再び警戒態勢になったので、私もじっとする。
そんな中、子ども達がはしゃいで走ってきたのだった。
「大丈夫?」
私が彼の顔の前で手を振ると、彼はまた背中に私を隠し、毛を逆撫でる。
もしかしてさっきの男性かと、私も緊張しだすと、彼が1人で喋り始める。
「…そうですか」とか、「…どうでしょうか」とか、彼にしか分からない世界に没頭しているようだった。
私は不安になり、
「誰と話しているの?」
乾いた唇を動かすと、彼が手を叩いて安心させてくる。
「それはどうも。でも…俺は光のある場所にいたいので、お断りさせていただきます」
また独り言なので、私は口を開こうとしたが、彼が威圧感を出しているので、黙っている。
彼は額にじっくりと汗をかいており、じっと1点を睨みつける。
頭と背中にじりじりと焦げるような痛みを感じていると、ようやく彼がはあと息を吐き出した。
しかもその場にうずくまるので、私は慌てて
「大丈夫!? ねえ!!」
「大丈夫だ。静かにしろ」
「うん」
私は彼と一緒に座ると、顔を覗き込もうとしたのだが、彼が嫌がりそうなのでやめておく。
私は空気が読めるので、彼が殺気を出しているのが分かった。
しばらくして安心を確認すると、彼が私の手を取り、立ち上がる。
「帰ろうか」
「そうしよう。今日はゆっくり休んだほうがいいよ?」
私はようやくいつもの彼だと思い、笑顔を向ける。
彼もリラックスすると、手を繋いで一緒に帰るのだった。




