第六話、夢と現の狭間で
「く、クラウザァァァッ!」
中庭に打ち捨てられていた魔術師が、血を吐くような絶叫と共に跳ね起きたのは、時刻も昼に差し掛かろうかという頃合であった。
別れを余儀なくされ、再会を誓った戦友の悲壮な最期に、手の震えが止まらない。
何より残念に思えたのが、夢に見た脆くも美しい過去を自分がついぞ持ち合わせていないことだった。
誰なの、クラウザー…
「くそ、一体どうなってんだよ、おれの深層心理は…」
魔術師には変人が多い。
何故なら彼らは、通常と異なる視点で物事を捉えるよう訓練された人間だからだ。
これまで「魔術師にしてはマトモな方」と冷静に自己評価していたマウは、自分自身に裏切られたような気持ちで一杯だった。
「ショックだ…立ち直れないかも」
両手で顔を覆って嘆く。
「…暑いし」
汗で張り付いた前髪をかき上げた頃には、しっかりと立ち直っていた。
彼にはそういう、刹那的な一面がある。
(ここは…中庭か?)
何故、自分がこんなところで寝ていたのかは…この際だ、きっぱりと忘れることにして、マウはぼんやりと辺りを見渡した。
緑の調和が美しい、見事な庭園だ。
絶妙なバランスで保たれた動植物の連鎖は、完璧過ぎるが故に不自然で、特に如雨露を片手に水を撒いている黒騎士が自然界の仲間入りをしているのが奇妙に映える。
木々を分け入った先では、また別の黒騎士が、庭園を闊歩する人面樹と互いの信念を懸けて激突しているようだった。
「クラウザーとか…ないわ」
しゃがみ込んでこちらを眺めている姉姫に、貴様に僕の何が分かるのかと問い掛けたい。
「急に叫ぶな。びっくりしただろ」
そして将軍に怒られた。
責任の幾ばくかは貴様にあるんだとは言えない自分が愛しい。
「…日差しが眩しいな」
マウは抜けるような青空を仰ぎ見て、穴があったら入りたいとはこういうことを指すのかと…静かに納得した。