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魔法日和  作者: たぴ岡
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第四十九話、不正停止

魔術師たちの間で人気の競技と言えば、「決闘ルール」だ。


三メートルの距離で向かい合い、互いの魔力を正面からぶつけ合うもので、ほとんど一撃で勝敗が決するから、まず使い魔を発現しての抜き撃ちになる。


そのルール下において、マウは負けたことがない。


だから、想像だにしなかった。


(踏めない)


逃げ道を想定できない。影を踏めないなど…


マウが最後に頼るのは、やはり使い魔だ。


目が合った。


アプリカは、残念ですが…とでも言うように、ふるりと一度、頭を揺すった。


ぎくりと硬直したマウに、襤褸を纏った剣士が覆い被さった。


「痛っ」


円卓に背中を打ち付けて、息が詰まる。


(…!)


反射的に閉ざしたまぶたを、まずいと思い即座に見開くも、瞬き一つで、もう趨勢は決していた。


円卓の上で大の字に倒れたマウを、虚ろな眼窩が見下ろしていた。


目を向けなくとも、喉元に冷たい気配を感じたから、ああ負けたのだと腑に落ちた。


彼が本気だったなら自分は死んでいたと、やや遅れて理解が降ってきて、ひどく恐ろしくなった。


声が震えたのは、その所為だ。


「なんで…」


《儂が魔力を使った。お前を通してな》


「な…に?」


理解できないと言うように眉をしかめる少年に、老教師は我が意を得たりと頷いた。


《それだ。お前は正規の教育を受けていないのか?》


彼は剣先を引き戻すと、手元できりきりと魔剣を回して、剣帯の鞘にぱちんと納めた。


もう片方の手に持つハリセンはそのままに、空いた片手をマウへと差し出す。掴まれということだろう。


比喩表現でも何でもなく、皮も肉も削ぎ落ちた手骨は、驚くほど細い。


不思議と暖かみのある中手骨に指先が触れて、無性に気恥ずかしくなってきた。


「いや…」


助け起こされたマウが言い淀んだのは、学歴に自信がなかったからだ。


彼が十四歳という若さで郷を飛び出したのは、進路の関係で一悶着あった為である。


進学の見込みはなかった。お世辞にも優等生とは言えない成績だったからだ。


落ち零れて流されて…今や「いつまでテーブルの上に居るの」と七歳児に叱られるところまで来てしまった。


素直にすみませんと頭を下げるのは年上のプライドが許さなかったから、卓上に散乱したノートを盗み見て、「ちゃんと勉強してるんだ。偉いね」と頭を撫でてあげた。


魔霊の姫は二人姉妹で、何食わぬ顔でやって来て妹の隣に座った方が「姉姫」、席ごとにじり寄ってくる姉をガン無視している方が「妹姫」だ。


姉妹と言うだけあって似通った面差しをしている。

数年も経てば、「同一人物です」と言っても通用するだろう。それほど似ている。


ただし、白いドレスに身を包んでいる姉姫に対して、その妹が着ているのは真紅のドレスだ。


まさしくお姫様然とした丈の長い衣装で、ふわりと裾が広がったスカートと、肩口を装う華やかなフリルが特徴的だった。


二の腕から指先にかけてを、こちらは純白の、長手袋で覆っている。


姉姫と同じくらいの長さの、やはり銀色の髪を、妹姫は彼女らの母親を真似ておろしている。


妹姫は、魔霊の王たる母を強く尊敬している。


だからと言って、マウが妹姫を女王と同一視することはない。


女王は、はっきり言って救いようがない。

だが、心優しく可憐な姫姉妹には明るい未来が似合うと感じていた。


「座るの? 座らないの?」


たとえ、獲物をいたぶるような目で見られたとしてもだ。


「…座ります。すみません」


身分が違うから謝ってもいいのだと、また一つ誇りを失った。


姉姫とは逆側の椅子を無言でばんばんと叩く妹姫に、マウは忠犬よろしく従った。


彼が着席したのを見届けて、スケルトンが筆を取る。


嫌がらせのつもりだろうか、椅子の上で身を乗り出して、頬と頬が触れそうなほど間近で妹を凝視している馬鹿弟子一号を、まずはハリセンで叩いておいた。

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