第四話、第一王女
「おやおや? そこにいるのはひょっとして将軍じゃないか!」
午前九時。足取りも軽やかに食堂に現れたのは、帝国の第一王位継承者たる姫君であった。
ここ帝国には、宝石のように美しいと評判の、二人姉妹の王女がいる。
今、遅めの朝食を摂っていた将軍にわざとらしく声を掛けてきたのは、姉妹の姉の方で、「姉姫」と呼ばれることが多い。
女王譲りの長くきめ細やかな銀髪を、今日は頭の後ろで一括りにしていた。
将軍は口の中のものをむぐむぐと飲み下してから、咎めるような目で第一王女を見る。
「姫様、またそのような格好で…」
純白のドレスは装飾過多ということもなく、それでいて王族としての品位を損なわない清楚なものだ。
しかし随分と裾が足りていない。
すらりとした脚が露出しているだけでなく、彼女が歩くだけで下着が見えてしまうのではないかと将軍ははらはらする。
「いいじゃん。別に誰が見る訳でもないし」
何より一番の問題は、このヒメ君が自分の美しさを自覚していない、あるいは無頓着であることだった。
「駄目です! この城には今、その…あの男がいるでしょう?」
黒騎士たちに囲まれて育った将軍だが、人間の男が女性に対して何かとんでもない野心を秘めているらしいことは一般教養として知っている。
「そ、そ、そんな破廉恥な…わたしは許しませんよ!」
何やら一人で盛り上がっている将軍に、姉姫が向ける視線は冷ややかだ。
「…それを言うなら、お前さんだって太もも丸出しじゃないのさ」
そう反撃すると、決まって将軍はしれっとした顔でこう言い返すのである。
「わたしはいいんです。わたしは、女である以前に戦士ですから」
「馬鹿やろうー!?」
「何を唐突にキレてんですか!」
この二人は幼馴染みであるため、仲が良い。