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魔法日和  作者: たぴ岡
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第二十三話、似て非なるもの

今年で七歳になる妹姫だが、人間の赤子と異なり、必要最低限の体力と知識を得てから生まれてくるため、実質的には十歳児に相当する。


三年。それが新しい王族の誕生に要する時間である。


その後、王族は長じるにつれて成長が緩やかになり、やがては完全に老化が止まる。


年下であるにも拘らず、姉姫が将軍に対して事あるごとにお姉さんぶるのは、そのためだ。


だから将軍は、生まれて初めてできた妹のような存在…つまり第二王女の妹姫にめろめろだった。


とくに怒ったときの顔ときたら、これはもう、


(たまらぬ)


と、ある種の興奮すら覚える。


まなじりを吊り上げて、形の良い眉をしかめた妹姫には、いつも無意味に元気な姉姫や、冷淡な女王とはまた違った魅力がある。


廊下に正座してお説教されている将軍が神妙な顔をして、まさかそんなことを真剣に考えているとは、想像だにしない妹姫である。


…いや、そうではなかった。


妹姫は、この年若くして元帥の位に登り詰めた少女が、如何にも常識人ぶった顔をした変人であることをとうに承知していた。


「ちゃんと聞いてるの? このへっぽこ聖騎士!」


「御意」


それでも潔く頭を垂れる将軍は凛としており、武人としての矜持に満ち溢れて見えるから厄介だ。


本来なら騎士が剣術を修めるだろう期間を、彼女は堂々たるはったりと口上の習熟に当て、残った時間で優雅にティーブレイクなど平気でやらかしていたのである。


妹姫の追及も自然と厳しくなる。


「…ホントに?」


「は…御心のままに」


もちろん将軍は聞いていなかった。


今はただ、この可愛らしい姫君を誰かに自慢したくて仕方なかった。


人間たちは帝国の王族を悪鬼羅刹のように語るし、別段それを否定するつもりはなかったが、今この城には自分と似たような立場の同族がいる。


どのような経緯で帝都に連れてこられたのかは知らないが、きっと分かち合えるという確信があった。


あるいは彼ならば…とすら将軍は思う。


さほど多くの言葉を交わした訳ではないものの、どこか自分と似通ったものを感じていた。

直感的に…だ。


やはり同じ人間ということなのか。


(そう。似ている)


自覚していなかった…否、認めるのが怖かった。

今なら、はっきりと言える。


(…マウ。あなたは…)


何という運命の悪戯だろう。


彼は…


…自分と、


芸風がかぶっている…


将軍は、雷に打たれたようにマウを見た。


「!」


ぱっと目を覚ました彼と目が合ったのは、とても偶然の一言で言い表せるものではなかった。


このとき将軍は確信したのである。


彼女はマウに駆け寄り、彼の手を取った。


テンション高いなあ…とマウは思ったが、それはさて置き。


将軍は、きらきらと輝く瞳で彼に告げた。


「術士! わたしと一緒に天下を取ろう!」


「え、意味わかんない…」


まず気絶した人間を廊下に打ち捨てる神経が理解できなかった。


同年代の異性に手を握られて何も感じないほど朴念仁ではなかったから、彼は照れ隠しにおどけて言った。


「何? 天下って、笑いの? 君はセンスあるよね」


「そうだとも!」


「あれ、肯定しちゃったよ、この子…」


マウは「寝起きから何なの、もー…」と、ひとしきり嘆いてから、将軍の手を優しく振り解いた。


「…残念だけど、君とは組めないな」


「な、何故だ?」


「だって僕は…」


うろたえる将軍に、マウはにやりと笑った。

おもむろに立ち上がった彼は、一人遠い目をしている妹姫の傍らに寄り添う。


「?」と見上げてくる彼女の頭を撫でて、マウは将軍に告げた。


「だっておれは、妹姫の味方だからね」


「! 貴様、裏切るのか?」


将軍の弾劾は、まったく筋が通っていなかったが、マウの返答もまた同じくらい脈絡がなかった。


「決着を付けようぜ、将軍…。おれとあんた、正しいのはどちらか…」


睨み合う両者。


かくして、運命の戦いの火蓋が切って落とされたのである…!


「…あんたたち、ちょっとそこに正座なさい」


そして直後に鎮火された。


帝国の未来は明るいのかもしれない。

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