第十四話、対話
そうなるよう訓練された人間だから、魔術師たちの世界へのアプローチの仕方は、常人とは異なる。
魔霊に意識があり、その方向が世界に向いているなら、彼らのメッセージを拾い上げるのは、そう難しくない。
それは見方を変えれば、人間が光を頼りに物を見て、音を頼りに物を聞くことと本質的に同じことだからだ。
「何でもありか」
と投げ遣りに吐き捨てた将軍は、もちろんそんな変態的な知覚力など持ち合わせていない。
魔霊の始祖たる女王ですら同じことだろう。
要はこちらの意図を理解できるだけの知能さえあれば作戦には事欠かないし、最悪筆記という手もある。
ちょうど、こんな具合に。
『元帥どの』
身体の一部を伸ばして、空中で無数に分裂した己が身で文字を再現していた。
『ご機嫌麗しゅう』
精緻なコントロールを要求される匠の技に、スライムの身体を張った「手文字」が、ふるふると小刻みに震えていた。
「む、無理をしなくていいんだぞ…?」
死んでしまうのではないのかと将軍は心配になる。
確かに魔術師とばかり話していて面白くないと感じていたが…しかもあんな画数の多い文字を…
王族以外で、他に魔霊を指揮する権限を持つ者はいないから「将軍」と呼ばれているが、彼女の公式な位階は「元帥」である。
古い魔霊ほど人間を高く評価する傾向が強いから、この人間の少女は帝国の怪物たちにおおむね好意的に受け入れられている。
それは、宿命の好敵手が味方に回ったような心強さと…歴史と共に駆け抜けた数多の戦場で育まれた奇妙な愛着によるものだった。
「尊敬されてるんだな」
と、いたく感心した様子のマウに、将軍の自尊心がくすぐられる。
「いや…なに、長い付き合いだからな」
そう言って彼女は謙遜するものの、ふんふんと鼻息を荒げて実に誇らしげである。
「たとえ言葉が通じなくとも、心と心でだな!」
対抗意識を剥き出しにしたその言葉がなければ、もっと尊敬できたのに。
言葉というものは便利な反面、容易に心の在り方を映し出してしまう。
だからおれたちは便利屋か何かと勘違いされるんだよなあ…というのはマウの言である。