ベルノア草原
ベルノア近郊・草原
――牧畜被害の調査依頼。
初夏の風が、やわらかな草を波のように揺らしていた。
遠くに広がる草原は、ところどころに白い花をつけたグランシア草が咲き、甘く爽やかな香りが漂っている。
「気持ちいいー!」
レオが両腕を広げて駆け出した。
「おい、走るな。対象を刺激するな」
リュシアンが真面目に注意する。
「大丈夫大丈夫!」
ヴァルはそのやり取りを横目で見ながら、少しだけ口元を緩めた。
セリスは地面の痕跡をしゃがんで観察している。
「足跡……かなり多いですね。ですが争った形跡はありません」
「暴走、ってやつか?」
ルカが空を仰ぎながら言う。
今回の依頼は、ベルノアの牧場を荒らすバッファボアの調査。
討伐ではなく原因究明。
草原の向こうから、低い唸り声が響いた。
レオが振り返る。
「来た!」
巨大なバッファボアの群れが、こちらを睨んでいた。
その中心にいる個体だけ、異様に大きい。
レオは瞬時に手首の紐のブレスレットに触れる。
願掛け代わりに結んだ、小さな紐だ。
それだけで、不思議と心が落ち着いた。
「……リーダーがいるな」
ルカが呟く。
ヴァルは剣に手をかける。
「まとめて片付ける」
「待て」
ルカが静かに制した。
「こいつら、追い込まれてるだけだ。無駄に殺す必要はない」
「でも!」
「暴走の原因が分からなきゃ、また同じことが起きる」
セリスが小さく頷く。
首に下げた古い魔除けを指で軽く触れる。
「森から押し出された可能性があります」
リュシアンも続く。
「誘導が最善かと」
ヴァルは不満げに舌打ちしたが、構えは解いた。
ルカが笑う。
「よし、作戦変更。群れを森に戻す」
レオが目を輝かせ、ブレスレットを握り直す。
「面白そう!」
結果、戦闘というより大騒ぎになった。
レオが走り回り、
リュシアンが指示を出し、
ヴァルが威圧で進路を作り、
セリスが煙玉で方向を制御する。
ルカは全体を見ながら声を飛ばす。
やがて群れは森へ戻っていった。
「成功、ですね」
セリスがほっと息をつく。
ヴァルは剣を肩に担ぐ。
「……まあ、悪くない」
ルカが笑う。
「だろ?」
セリスはその横顔を少しだけ見つめた。
(この人は……)
言葉にならない感情が、胸の奥に小さく残った。
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