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蒼影の朝

久しぶりに屋根のある場所で眠れるというだけで、五人は妙に浮かれていた。

開け放たれた窓から初夏の風が流れ込み、白いカーテンを揺らす。外では鳥の声と、遠くの街のざわめきがかすかに聞こえていた。


枕が飛び交う中、低い位置で纏めた赤髪を揺らしながら、レオが派手に避けてそのまま壁に激突した。


「いってぇー!」


その姿にヴァルとルカが腹を抱えて笑う。

黒髪が揺れ、視界の端で日差しが弾けた。


だがその瞬間、青い目の端で反対側の異変を捉えた。

レオが避けた枕が、勢いよく飛んできたのだ。


長めの、さらさらとした茶色のリュシアンの前髪が、青みがかった銀髪のセリスの額へと触れそうな距離まで落ちる。

近すぎる距離に、リュシアンのエメラルド色の瞳とセリスのアメジスト色の瞳が揺れる。


騒がしかった部屋が、一瞬だけ静まり返った。


その沈黙を破ったのはルカだった。

「……百合か? お盛んなことで」


「俺は男だ!」


即座にリュシアンの鋭い声が飛ぶ。だが次の瞬間には、表情を引き締めてセリスへ向き直った。


「悪いな、勢い余ってしまった。立てるか?」


そう言って差し出された手は、無駄のない動きで、どこまでも紳士的だった。


「大丈夫です。ありがとうございます」


セリスはそれを取ると、世間で“氷の女神”と呼ばれる面影を忘れさせる柔らかな笑みを浮かべる。

この仲間たちの前では、その通り名はほとんど意味を持たなかった。


その様子を見ていたヴァルの表情が、わずかに曇る。


「……あー、やめやめ。ちょっと外の空気吸ってくる」


軽く手を振って部屋を出ていく背中に、初夏の風が吹き込んだ。

誰も気づかないほど小さく、扉が閉まる音が響いた。


ヴァルの頬を、生ぬるい初夏の風がすり抜けていく。

理由の分からない苛立ちに襲われることが、最近やけに多かった。

ただ確かに、胸の奥が落ち着かない。


窓を開け放った宿の部屋からは、四人の楽しげな声が外まで響いていた。

ぼんやりとその窓を見つめていると、ひょいと顔が覗く。


セリスだった。


「ヴァルー! お昼ご飯食べに行こー!」


淡いプラムピンクの唇から出たとは思えない、女性にしては少し低めの声。

その呼び方は妙に自然で、胸のざわつきがわずかに和らぐ。


「今行くー!」


そう答えた瞬間、セリスの後頭部に枕が直撃した。


「あっ」


青みがかった銀髪がさらりと揺れ、部屋の中へ消えていく。

どうやら犯人はレオらしく、すぐに騒がしい笑い声が響いた。


「ふっ……」


思わず小さく息が漏れる。


レオは誰にでも懐っこい。

あの“氷の女神”と呼ばれるセリスでさえ、警戒心を抱いていないようだった。


それは――ヴァルも同じだった。


初めて公開した作品を読んでくださり、本当にありがとうございます。

まだ始まったばかりの物語ですが、少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです。


毎週金曜日 21時頃更新予定です。

よろしくお願いいたします。

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