表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/6

第4話「正しい嘘の置き場所」

特別対応係の仕事で一番厄介なのは、「正解」が複数ある案件だ。

誰かを救えば、誰かが不満を抱く。

その均衡点を探すのが、俺の役目だと思っていた。

だが、その前提を揺さぶる案件が回ってきた。

テーマパーク内の飲食店で起きたトラブル。

提供された食事に異物が混入していたという申告だ。写真もある。来店客はSNSへの投稿を示唆し、即時対応を求めている。

課長は言った。

「現地でまとめろ。今日は“見られてる”」

最近、こういう言い方が増えた。

誰に、とは言わない。

店は昼のピークを外した時間帯だった。バックヤードで、店長とアルバイト、施設管理の担当が揃う。客は別室で待っている。

「混入は、あり得ません」

店長の声は、歪まない。

「調理工程は確認済みです」

施設管理も、歪まない。

珍しい。

ここまで澄んだ音が続くのは。

客室に移り、申告者の女性と向き合った。

写真を見せられる。確かに、皿の端に小さな金属片が写っている。

「最初から入っていました」

――歪む。

女性の怒りは本物だ。

だが、“最初から”だけが、濁る。

「気分が悪くなりました」

歪まない。

嘘は混じるが、被害はある。

いつもの構図だ。

俺はバックヤードに戻り、工程表を見直した。

金属片が出る可能性は、理屈の上では低い。だが、ゼロではない。

アルバイトに聞く。

「ピーク前、何か変わったことは?」

「……急いでました」

歪まない。

店長に聞く。

「提供前の最終確認は?」

「通常通り」

歪まない。

全員が正しい。

だからこそ、決め手がない。

そこで、施設管理がぽつりと言った。

「最近、清掃業者が変わりました」

歪まない。

厨房の床を確認すると、清掃用具の金属部品が一部欠けている。

形状は、写真の欠片と近い。

可能性は見えた。

だが、証明はできない。

客に戻り、俺は言った。

「原因は特定できません。ただし、健康被害の申告は受け止めます」

「それで?」

「返金と、医療費相当の補償。加えて、店舗の再点検を実施します」

女性は不満そうだった。

「認めないんですね」

――歪む。

「事実として、断定できない部分があります」

俺の声は、歪まない。

沈黙のあと、女性は条件を飲んだ。

SNS投稿はしない、という約束も。

解決。

少なくとも、表向きは。

帰社後、法務から声をかけられた。

「“正しい対応”だった」

歪まない。

だが、続けてこう言った。

「ただし、理由は記録しない」

俺は一瞬、言葉を失った。

「なぜです」

「書くと、余計な火種になる」

その声は、歪まなかった。

だから余計に、重い。

デスクに戻ると、またメッセージが来ていた。

『今日は、嘘を置きましたね』

歪みがある。

俺は画面を伏せ、天井を見上げた。

嘘を暴かず、嘘を認めず、嘘を“置く”。

それが、この仕事の現実だ。

ただ一つ、分かっていることがある。

その置き場所を、間違えた瞬間――

次に呼ばれるのは、客でも現場でもない。

俺自身だ。

そう考えたとき、胸の奥で、はっきりと音が鳴った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ