禁をおかす占い結果
ブックカフェたまるの看板の脇に新しくメッセージが2つ添えられた。
ブックカフェたまる、でポイントが貯まる。
ブックカフェたまるの専属占い師である私の提案でポイントカードが作られたのだ。
そして、占い致します、の言葉も。
「ショッピングモールのフードコートに寄ったんです」
「お嬢は、ひとり行動が得意なんですね。あそこのフードコートなら、高齢者のグループが多いでしょう。そこで食事をしたのですか?」
「はい」
「勇気がありますね」
「おじい、ここら辺は喫茶店やカフェも多いじゃないですか。私は1人でそういう所にも入ります。ただ、気づいたことがあるんです」
「なんです?」
「グループの所得が異なるんじゃないかと思うんです」
「ほう!するどいですね!」
「フードコートは紙コップのコーヒー1杯250円でずーっと座ってられます」
「それで?」
「昭和喫茶は700円でした。そこを利用する人は450円余計に払えるグループなんです」
「なるほど!」
おじいはちょっとした気づきでも大げさに驚いてくれるから自信につながる。
「公民館でも所得格差があってね。みなさん、口には出さないけど、着ている服や持ち物に違いがありましたよ。もうひとつ、口に出してはいけないとされる暗黙のルールに、現役時代の待遇についてというものがありました」
マスター田丸が口を挟んできた。
「大きな会社で部長をしていた、君はどうだった?と、聞いてくる方がいたそうです」
「それは、協調性を欠く行為ですね!」
「確かにそうです。柳ヶ瀬さんの方が立派な経歴を有している場合がほとんどなんで、余計に困ったそうです」
「おじい、すごい、です!そして、立派です!」
おじいはニコニコ笑いながら、私とマスターの会話をきてくれている。本当に、私はここが好きだ。いや、お二人のことが好きなだけなのかもしれない。
「ブックカフェたまるは閉店ですか?」
おそるおそる聞いてみた。マスター田丸は最難関の資格試験である司法試験に合格した。次にくるのは司法修習生としての実習だからだ。ブックカフェとの両立は難しいだろう。通えないし、ブックカフェを営業している理由がなくなったのだから。
マスターは無言だった。だから、私もそれ以上追求をしなかった。次に浮かんだ言葉も封印した。
「私にブックカフェたまるを運営させてください!」
「スイさん、」
マスターが口を開いた瞬間、同時にブックカフェたまるのドアも開いた。
引き戸を引く「よいしょっ」との掛け声と一緒に。
1人の大人女子が入ってきた。
「柳ヶ瀬さん、おはようございます」
快活な感じのその大人女子は「占いをしてほしいのですが」と帽子を取って手に持った。
おじいの知り合いで、私のことを宣伝してくれた結果だった。
「あなたが占いを?」
「はい。森山翠と申します。よろしくお願いします」
大人女子は琴小田みつきと名乗った。私たちは向かい合った席に座った。みつきさんは用件を切り出した。
「恋愛相談は受け付けていますか?」
「大丈夫ですよ。基本的に占えないことはありません」
「わかりました。占って欲しい内容は、お付き合いしている彼とのことです。現在、会社が激務で真面目な性格が災いしてうつ症状がでて、休職しているんです」
「そうですか。心配されているんですね」
みつきさんは私の目を見つめ「いいえ、心配はしていません」と言った。
「別れようかどうしようか迷っているんです」
マスター田丸が口を挟んできた。
「冷たくないですか?」
私はマスターがなんでそんなことを言うのか驚いた。相談者が傷つく、そう言うのは。そう思ったからだ。
だが、それは私の思い過ごしだったみたい。みつきさんは「私もそう思います。だから、相談しにきたんです」とため息をついた。彼が自分を頼りすぎ重荷になってきているのだと正直に告白した。
占いスクールの講師に「話を聞いてほしい相談者も多いの。だから、当たらない占い師も存在意義があるのよ。コミュニケーション能力が高いことは大変強い武器になりますから」と教えられたのを思い出していた。
私は目の前に揃えられたタロットカードを崩し、シャッフルしながら念じた。「二者択一法で占います。右側が別れた場合、左側がお付き合いが続いた場合、その結果は?」
沈黙があった。
その沈黙を破ったのは質問者だった。
「どうでました?」
私はまず結果を伝えた。占いスクールの講師に「結果を先に質問者にお伝えすることも有りです。占いの料金は基本的に分単位ですので。その上でアドバイスや解決策を知りたいのならお教えしてもいいんじゃないかしら」と言われ、納得したからだ。
現実に占法の説明に20分かけ、残り10分で占い結果を「大丈夫です!心配なし!」と満面の笑顔で伝え30分の料金を取る占い師もいたから。
アルバイト代をはたいて勉強のために占いをしてもらったのだが、これは高い勉強代だった。
右側の最終結果の位置に死神の逆位置。死神のカードが持っている意味が、逆位置で出たことで弱まる、と読んだ。
「彼が自ら命を絶つかどうか、その瀬戸際ですので、」
みつきさんはこの言葉を聞いて突然目を潤ませ、泣き出してしまった。
「距離を置こうと言ったら、頷いてくれたんですけど。友人に、もう、何もかも無くした、死んでしまいたい、と」
おじいとマスターに緊張が走ったのがわかる。
しかし、私は気にせずに左側の最終結果を告げた。女帝の正位置だった。
「別れる必要はありません」
「えっ?」
「理由をお伝えしてよろしいですか」
「はい、ぜひ」
二者択一の場合、アドバイスは最初の1枚、原因・現状を読み解く。現れた大アルカナは賢者の正位置。
「うつ状態からは回復します」
「えっ?」
「治療に専念してもらうために、距離を置いたままにしてください」
「そうですか、しかし、なぜそんなことが言えるんですか?私、結婚を考えているんです」
「結婚、をしたいんでしょう?好きな相手と結婚をしたいんじゃなくて」
「……」
「お嬢、結婚は綺麗事ではできませんよ。所帯を持つと言うことは責任を持つことでもあるんです」
私はおじいの発言をそのままにして、リーディングを進めた。
「左側の結果の位置に出ている女帝は結婚・妊娠の意味を持ちます。別れずに時を待ちご結婚することをお勧めします。ただし」
「はい」
みつきさんは困惑を隠しきれずにいた。
「ただし、占いは占いです。決めるのは質問者ですし、結婚となったら両者の合意が必要でしょうから」
私は目を閉じて「ふぅーっ」とため息をつくと「終わりました」とだけ言った。
「終わったのですか?」
「私の中でまとまったのでこれからどうなるのかどうすればいいのかを話し合いましょう。ここからはカウセリングになるのですが、結婚願望が強いウチは大抵みなさん結婚しないものらしいんですよ」
マスター田丸が頷いている。そして、口を挟んできた。
「彼と結婚したい。しかし、好きだった彼ではなくなった。だから、迷っている。そんなところでしょうか」
マスター田丸、女心がわかりすぎてる。
みつきさんは、顔を真っ赤にしてうつむいてしまった。
「まだ、好きなんでしょう?」
私は訊ねた、できるだけ優しく。年上の女性に上から目線だったかもしれない。けれど、私は占い師としてこの魅力的な女性と向き合っている。
みつきさんはしゃくりあげながら本音を告白した。
「もう、29歳で。彼との赤ちゃんが欲しいけど、無理です!彼はいま休職中で収入ないし」
おじいは愛おしいものを見るように「疾病手当をもらってるはずですよ。確か、8割か7割給付でしたっけ、田丸さん」と言い、法律に詳しいマスター田丸に話題をふった。
マスターも微笑んで「そんな感じだと思います」と応じた。そして「なんとかなりますよ」と、質問者に向けてニッコリとした。
私は「こちらから質問させてください」と、聞いてみた。
「ご相談は三角関係ではないですよね?」
みつきさんは「違います!」と今度は目をまんまるくして声を大きくした。
おじいもマスターも黙ってことの成り行きを見守っている。
恋人たちの逆位置が出ている。全体を見渡しリーディング。おそらくこれは三角関係を示す。しかし、質問者はそれを否定したのだった。




