再会
初めて出会ったあの日から一週間後。
蒼衣はその日も、マスクをして帽子を目深にかぶっていた。
人目を避けるように店の扉をくぐる。
(今日も……いるかな)
カラン、と小さくベルが鳴る音。
ふと顔を上げると、カウンター席に、やっぱりいた。
コーヒー片手にスマホをいじっているが、目線はすぐこちらに気づいて、ゆるく微笑んだ。
「久しぶり。また来たんだ?」
その一言が、なんだか嬉しくて。
蒼衣は少しだけ頷いて、今日は窓際ではなく、カウンターの一つ隣の席へと腰を下ろす。
「……ここ、静かで落ち着くんです」
「だろ? 俺もそう思って通ってる」
言葉を交わすのは、まだ少しだけぎこちない。
けれど、蒼衣の胸の奥はあたたかかった。
二人は特に会話をすることなく、時間だけが過ぎていった。
(恥ずかしいけど......この人の隣がなんだか心地いい......)
葵衣は話すこと自体あまり得意ではなかった。そのため、大抵は気まずい雰囲気になってしまう。だからこそ、話さなくても隣にいるだけで心地よいと思えるのは初めてだった。
音楽はゆるやかに流れ、街の喧騒とは無縁の空間。
会話は途切れ途切れでも、心は少しずつ近づいていく。
(やっぱりかわいいよな......。顔も整ってるし、髪も綺麗)
蒼は彼女のことを横目で見ながら、蒼衣のことを綺麗な人だと思っていた。
蒼がコーヒーを飲み終え、お店を後にしていく。
蒼が出て行くと、蒼衣はほんのり顔を赤くして、手で顔を隠した。葵衣はその時蒼のことを考えていた。
(話してみたいな......。あの人と......)
このカフェは、2人にとって特別な始まりの場所になっていくのだった。