プロローグ③
ゲームのし過ぎでアエラに怒られた六花はやっと力の訓練を始めた。それは天使の中でもトップの実力があるアエラをして驚愕させるものがあった。
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「あ!そうだ!アエラ~!訓練相手になってよ!」
「……かしこまりました……私も全力で行かせていただきます……」
天使は自前の翼で空を飛び花びらに乗って空中にいる六花の高さまで浮上する。そのアエラの真剣な表情に軽く確かめる程度で提案した六花は"やってしまった"といった表情。
「(もしかして今までの鬱憤をぶつけるつもりじゃない?これもサボっちゃったツケが回ってきたか)」
「(六花様はまだご自身の力の脅威度を正確には把握していない様子。こちらも全力で構えなくては大怪我を負ってしまいかねません)」
アエラは六花の考えているような鬱憤を晴らすような気持ちはなく逆に危機感を抱くほどに若干の緊張を見せていた。
「それではあそこにあるタイマーが鳴った時がスタートの合図といたしましょう」
「は~い」
そう言ってアエラは創造の力で生み出したタイマーが地面にセットされる。表示されている数字は5秒。
「(う~ん……最初は防御から考えたほうがいいかな?でも相手は女神さまが抜擢したいわば選ばれた天使ってことでしょ? 最初から全力で攻撃してもいけるでしょ!)」
「(まずは様子見ですね。無いとは思いますが全力で攻撃される可能性を考慮に入れて攻めてくる様子が見えなければこちらから攻めるという感じで行きましょう)」
そんなアエラの念のための措置は功を奏する。
ピィー!!
タイマーの数字が0となり音が鳴ったのとほぼ同時に六花の大量の花びらがアエラを襲う。
「っ!?(速い!?)」
2人の距離はそこそこ離れておりタイマーがなる前の花びらたちは六花の周囲に存在するのみ。にもかかわらずタイマーとほぼ同時にアエラを襲った花びら。それほどまでに六花の花びらの速度が超高速だという証。
ガガガガ!
しかしアエラも伊達に女神から認められて補佐役に就任しているわけではない。ゼロコンマで襲い掛かってきた六花の花びらに白い壁を生み出して防御。
「硬った!?なにその壁の素材?」
「これはダイヤモンドの硬さを超えるアダイトと呼ばれる素材で作られた壁です。このアダイトは宇宙エレベーターなど破壊されると大被害が見込める超重要な施設や装置に用いられます。私はそれを天使の力によって強化していますが」
「はえ~……そりゃあ壊せないわけだよね~……」
確かに最初から全力で攻撃した六花の花びらたちはアエラのアダイトの壁を破壊することは叶わなかった。しかしその最高硬度の壁は半分近くも削られていた。
「(なんて威力……あの速さでの操作に強化されたアダイトの壁を半分まで削る威力……もし今後の鍛錬でもっと強くなるのだとしたら……)」
アエラは六花の可能性を想像し味方ながら冷や汗をかき唾を飲み込んだ。
「ねえ~?まだ続けていいよね?始まったばかりだし?」
「……もちろんです。私は六花様を補佐するのが役目。六花様の訓練に付き合うのも役目のひとつです……」
「ありがとうね。それじゃあ行くよ~」
そうしてそれからもアエラを相手にしての訓練は続いた。当初こそ経験の差からアエラが優勢に繰り広げられてきたがそれが10分→20分→30分と経てば女神が認めた六花の才能が本領を発揮。より高速で・より繊細に・より高威力な花びらを扱えるように。さらにそこに様々な属性を付与させた花びらが繰り出されいつしかアエラ優勢が消えつつある。
「これでどうだ!瑠璃唐草!」
それは青い花びら。それが大量にアエラの周囲を舞っている。
「……今度はなにを……」
さきほどから思いついた技を試すかのように六花は特殊な技を使用していた。そのたびにアエラは即座にそれに適応する必要があった。そしてこれの効果はすぐにやってきた。
「視界が……なるほど目くらましということですか……しかしこのような目くらまし程度で……」
しかし六花の放った青い花びらたちはただの目くらましではなかった。それはアエラ自身の息が白くなっていることからわかる。
「まさかこれは……まずい!?」
アエラは気が付いた。六花の繰り出した瑠璃唐草という技は目くらましではなく周囲に冷気を発生させ極寒の地を作り出すことだと。それに気が付いたアエラは翼をはためかせ急いでその場から離脱する。
ギュン!
「当たり!陽花!」
出てくるところを張っていた六花は賭けに勝ち出てきた瞬間に自身が考えた最高威力を誇る技でアエラを攻撃した。それはいくつもの花びらを円状に並べその中心をレーザー砲として放つ必殺技。
ズギュン!
レーザー砲は見事にアエラを直撃。アエラが回避できなかったのは六花の瑠璃唐草を受けて体温が急速に低下して身体を思うように動かせなかったから。
その場は煙が立ち込める。六花としてはすぐにアエラがそこから出てきて攻撃に移るかなにかしてくると踏んでいたため警戒していたが一向にその気配がない。それによって六花は徐々に焦りだす。
「あれ……うそでしょ?……もしかしてわたし……」
最悪の事態を思い浮かべるも煙が晴れるとそこには丸い盾に守られているアエラがいた。
「なあんだ心配させないでよ~。まあでもそりゃそうだよね?今日訓練を始めたばかりの私がアエラを殺せるはずないし!焦って損した~」
「……」
六花はアエラが無事ということに安堵。頭の中ではいまだにアエラが圧倒的に上ということになっている。しかしアエラが抱いた感想とはまた違った。
「(まさか訓練初日の六花様に対してアルファの盾を使用することになるなんて……でもこれがなければ私は確実に死んでいた……)」
アルファの盾とは天使の実力がトップのアエラが女神さまに直接渡された盾。それはアエラといえど創造では作り出せない神器。
「ねえ?もう終わらない?丘も結構崩れてるよ?」
「あ、はい。そうですね。それでは今日はこの辺で終了といたしましょう」
そうして六花の力の訓練は終了した。
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