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世界は愛を拒む  作者: T.T
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第1話

 急いでるときに限って、世界はここぞとばかりに妨害をしてくる。

 今日は半年に一度、彼女と会える日。

 時刻は5時30分、いつもより早く目覚ましを止め、冷たい水で顔を洗う。朝食を済ませ、自転車で駅まで急ぐ。だが、最初の障害がすぐに現れた。信号はことごとく赤、電車は人身事故で遅延、バスでは運転手と老人が言い争い、徒歩の道はマラソン大会で封鎖されていた。


「今回もか………」


 焦りはやがて苛立ちに変わり、時計を見るたびに心が締め付けられる。走れるところは必死に走り、汗が額を流れるが、結局1時間弱の遅刻。

 目的の家に着いたときには、心臓が壊れそうなほど高鳴っていた。インターファンを鳴らす。

 すると、家の中からバダバタと足音が近づき、勢いよくドアが開いた。


「んーーー!!!おかえりーーー!」


 彼女は飛びつくように俺に抱きつき、両腕を腹部に回す。


「遅いっ!でも許してあげる!」


 俺の胸に顔を擦りつけ、鼻をくんくん鳴らしてくる。


「相変わらずいい匂いだねぇ。これで香水なしなんて、反則だとは思わんかね?」


 変わらず元気そうで、俺は安堵した。


「久しぶり。元気そう良かった。遅れてすまん」


「うんうん!メールで散々怒ったから、気にしてないって言いたいけど………うそ!やっぱり今でも怒ってるよ!」


 腕をぎゅっと締め付け、彼女は顔を上げる。


「だから、我、褒美を欲するものなり!」


 俺と彼女は、いわゆる遠距離恋愛というやつをしている。

 俺は埼玉県に住んでおり、彼女は京都に住んでいる。

 俺は陸上選手、彼女はモデルだ。

 一日で行ける距離ではあるけれど、予定がなかなか合わない。

 それでも、会いたいと思っている俺たちは、年に二回だけは何とか予定を合わせ、こうして会うことができている。

 マスコミの目も気にする必要があるため、移動の際は変装して気づかれないようにしないといけない。それもあって、実際に会えるのは、本当に時間が空いたときだけだ。

 現在の時刻は15時30分。本来なら14時頃に着くはずだったが、様々なことが起こり、遅れてしまった。

 これが今回だけではない。毎回会うたびに、どうしても災難に見舞われ遅れてしまう。

 だから、彼女に何を言われても、俺には文句を言う資格なんてないのだ。


「何が欲しい?」


「なでなで」


「わかった」


 俺は彼女の頭に手を置き、ゆっくりと撫でた。

 髪は絹のように柔らかく、指に絡みつく。その温もりに、心の底から安らぎを感じる。


「これで満足か?」


「うんうん………もっとしてほしい」


「分かった分かった」


 俺は彼女の髪を撫で続ける。


「えへへ」


 この家は、京都の隅に位置し、周りは自然に囲まれている。有名な観光地から割と距離の離れたところにあるため、人が来ることも少ない。

 お互いに20歳になった俺たちはある程度稼いだお金と両親から借りたお金でこの家を購入した。

 二人の秘密の隠れ家として。


「ふぅーー堪能したーまだ、したりないけど」


 彼女はゆっくりと俺の体から離れると、家の方に手招きしてきた。


「さぁさぁ、上がりたまえ」


「そうだな」


 俺たちは家に入った。

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