表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/1

Prologue: 終末の後の始まり

私はずっと、人生は建物を建てるようなものだと思っていた。


まず基礎を作る――幼少期、経験、教育。

そこに決断や失敗、成功が積み重なり、やがて形になっていく。

生まれつき頑丈な基盤を持つ者もいれば、自らの手で一つ一つ積み上げていく者もいる。


私は後者だった。特別な才能があったわけでもない。ただ、努力を重ねて、計画的に生きてきた。

そして、慎重に一歩ずつ積み上げていけば、人生はうまくいくものだと信じていた。


……そんなはずだった。


だが現実は、設計図通りにはいかない。

時には、まだ建設途中のまま、すべてが崩れ去ることもあ



私は高橋ヒロとして生まれた。


東京郊外の静かな町。両親はごく普通の会社員とパート主婦だった。

厳しくはなかったが、当然のように期待はされた。

良い成績、安定した職業、将来の保証――どこにでもある、日本の家庭の価値観だった。


私は天才ではなかったが、そこそこの努力でそこそこの成績を取り、無難に大学へ進学した。

専攻は土木工学。特に夢があったわけではない。ただ、"堅実" だったから選んだ。


「仕事がなくならない職業を選べ」

父はそう言った。

「橋も道路も建物も、いつの時代も必要だ」


私はその言葉に従い、学び、卒業し、社会人になった。


ーーー


仕事が嫌いだったわけじゃない。


確かに激務だった。確かに給料は思ったほど高くなかった。

だが、自分の設計したものが形になり、街の一部となっていくのは悪くない気分だった。

自分の作った道を、人々が歩き、車が走る。

自分の作った橋が、何十年も人々の生活を支え続ける。


……けれど、どこか物足りなかった。


朝起きて、仕事へ行き、夜遅くに帰る。

毎日がルーチンの繰り返しだった。


それが一生続くのか?


「人生は情熱じゃない。責任だ」

上司にそう言われたことがある。

「夢で飯は食えない」


だから私は働き続けた。歩みを止めず、積み上げ続けた。


それでも、眠れぬ夜には考えてしまう。


……このままで、本当にいいのか?


ーーー


死んだ日のことは、今でも鮮明に覚えている。


ただの仕事の日だった。

いつもの現場、いつもの確認作業。

この日も、ビルの建設現場で足場を点検していた。


だが、ほんのわずかな違和感があった。


足元で聞こえた、微かな きしみ 。


普段なら気にも留めない音。

だが、その時の私は何かを感じ取った。


しゃがみ込み、金属の接合部を確認する。

……そこにあったのは 緩んだボルト だった。


小さな、たったひとつの、ほんの数センチの狂い。


けれど、建設現場では一つのミスが命取りになる。

悪寒が走る。


咄嗟に無線を取ろうとした、その瞬間――


足場が崩れた。


ーーー


落下する感覚は、思ったよりも 静か だった。


恐怖も、焦りもなかった。

ただ―― 信じられなかった。


こんな馬鹿なことがあるか?


何の前触れもなく、突然、終わりが訪れるなんて。

全身の力が抜け、空を切る。


風の音だけが、耳の奥で響いていた。


その時、不思議なことに、怒りの感情が湧いた。


ふざけるな。俺は、こんなことで死ぬのか?


人生ずっと、慎重に生きてきた。

安全第一で仕事をしてきた。

何度も確認し、何度もミスを防いできた。


それなのに、よりによって 他人の不注意 で死ぬのか?


なんて理不尽な――


いや、それ以前に……


俺の人生、何か成し遂げたか?


旅をしたか?

無謀なことをしたか?

愛したか?


……何も、していない。


ただ生きて、ただ働いて、ただ歳をとるだけの人生だった。


もし――もし、もう一度生きられるなら。


今度こそ、違う生き方をする。

今度こそ、俺は、俺の人生を生きる。


……そんな考えが浮かんだ瞬間、世界は暗転した。


ーーー


息が詰まるほどの圧迫感。


目が覚めた瞬間、肺が燃えるように苦しく、全身が鉛のように重かった。


寝具の感触がいつもと違う。

空気の匂いも違う。


……ここはどこだ?


意識が混乱する中、知らない声が響いた。


「レオナード様! ご無事ですか!?」


レオナード?


違う。俺の名前は――


だが、脳内に溢れかえったのは、まったく知らない 記憶 だった。

顔も知らない人々。

見覚えのない建物。

生きた覚えのない人生。


理解した。


俺は 高橋ヒロではない。

俺は 死んだ。


……それでも、まだ生きていた。


だが、そこは 俺の世界ではなかった。

物語の始まりにお付き合いいただき、ありがとうございます。


このプロローグでは、主人公の「終わり」と「始まり」を描きました。人生を慎重に歩んできた男が、突如としてすべてを失い、そして全く異なる世界で新たな人生を得る。彼がこの世界でどのように生き、何を成し遂げるのか――それはまだ始まったばかりです。


この物語は単なる異世界転生ではありません。彼の知識、価値観、そして生き方が、この新しい世界にどのような影響を与えるのか。そして、彼自身がどのように変わっていくのか。そんな過程を楽しんでいただければと思います。


今後の展開にもご期待ください!


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ