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水卜風鈴は中二病?  作者: 悠々
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水卜風鈴は中二病?

3

『これから───高等学校入学式を執り行います。新入生入場』


 災難に次ぐ災難(時間間違えとかいう自業自得が原因)をすべてを乗り越え今、会場である体育館にアナウンスが響き入学式が始まった。

 吹奏楽部の演奏、そして教職員、来賓の拍手に見舞われながら入口から並べられた保護者席と保護者席の間の道を通り抜け、新入生の数だけパイプ椅子が並べられた中で自分の席向かう。

 勿論他の人も含め当日の一発本番かつ、遅刻で説明も受けれずどこに座ればいいか分からなかったが、


『どんな事情あれ初日から遅刻とはな………あ、俺は阿留多岐大翔、大きく翔ぶでヒロト。よろしくな!取り敢えず入学式の動きは俺についてくれば問題ないぜ』


 と式が始まるギリギリに自分のクラスに入った俺に勇敢に言ってくれた名字の珍しい良い奴のお陰でなんとかなりそうだ。

 入場の際、言葉通り阿留多岐の後ろを追っかけると、阿留多岐が座ったのは後ろから四列目のパイプ椅子が並べられたの真ん中辺り。


「ほら、ここに座っていいんだよ。あんなふうに言ったけど自分のクラスの場所なら席は自由なんだ」


「そ、そうなのか。ありがとう」


 阿留多岐が座った隣のパイプ椅子を叩きながら座ることを促してきたので、俺は礼をして腰を掛けた。

 それにしても歓迎の音楽と紅白の装飾があるだけで一気に辛気な体育館がお祝いムードになるものだ。

 他のクラスが手拍子に合わせながら入場している中、阿留多岐が興味ありげな口調で話しかけてきた。


「なぁユウキ。なんで今日は遅刻してきたんだ?初日から遅刻なんて特別な事情でもあったのか?」


「いやー、それは………まぁ何でもいいじゃんか」


 見つかってから自分のクラスに連行される間、いずれ誰かに訊かれると思って言い訳の一つくらい考えてたんだが───、全く思いつかなかった。とても言い訳の出来るような状況でない。

 別に嘘ついて「腹が痛くてー」とかでもいいのだが、間違いなく後にあのクラスにいた奴らによって”俺が先輩女子とロッカーから出てきた”という噂が耳に入るに違いないからな。嘘はただのその場しのぎになり、後々の不安を募らせるだけだ。


 正しく話すとしたらあの後は───、俺がロッカーから飛び出したせいで、俺と彼女(ほとんど俺)はもれなく冷たい視線をもらい、クラスにいた女の先生によって名前を確認され、「何故ロッカーにいたのか」聞かれたあと俺は自分のクラスに運ばれた。


 彼女はどうやら新二年生で、工事を知らず前年度のうちに確認していた自分の教室に来たと。(クラスは春休み前に発表済み)そして今日が二年生は午後登校のことを知らなかった。

 いつもだったら朝礼が始まってるのにも関わらず友達が来ずに、知らない人が沢山来て人見知りな為ロッカーに隠れていた」と。

 うーん、時間確認せずに遅れた俺が言うのもなんだが色々と確認不足すぎる。そんなことあんのかよ、ロッカーに普通は隠れないだろ。


 でもそんなお互いの確認不足が続いたからこそ、俺はロッカーであの他には例えようのない感触を手に入れたわけであり、結果としては良かっ………ではない。


 事が過ぎてそのまま彼女は図書室に向かい、二年の登校時間になるまで自習しているそうだ。彼女には超能力バレかけたし、もうあんま関わりたくない。あんま、な。

 因みに俺は「朝早く掃除してたらいつの間にかロッカーに閉じ込められてしまって───」なんてあり得ないことを言ったが、それより追求されることはなかった。

 一緒にロッカーにいた上級生が「先生、まほうです!まほう!急に現れたんです!」とか更にあり得ないことを言ってくれたおかげかもな。

 それにしても思い返すだけで肩にオモリが載せられているような感覚に陥る。


「おいおい、いきなり肩を落としてどうした?そんな話したくない事情があったのか」


「いや、ちょっとあの冷たい視線を思い出してな」


「視線?それと遅刻が関係あるって?」


「ああ、大あり。いずれ噂となって聞くことになると思うから是非楽しみにしてていいよ───、そうだ。大翔、一つ訊いていいか?」


 一つ厄介事、いや気がかりなことがあった。俺が意気消沈しながら教室に入ったときにどう思われるか心配で、気になってテレパシーを使った時。


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 説明不要だとおもうが、一応。


 テレパシー:人の心の内容を言語・表情などによらずに、直接読み取ること。簡単に言うと他人の考えてることが分かるってことだ。これはテレポートと違ってバレるバレないの面では比較的ローリスク。自ら何か口走ってヘマを犯されない限り他人にバレる心配はない。

 でもこれが意外と難しく、他にも欠陥もある。自らを中心とした半径十メートル以下に設定できないため、近くにいる人間全員の人間の心の声が聞かなければならないがとにかくシンドイ。様々な負の感情が流れてくる訳だからな。優しい人の外と内のギャップを見てしまった時には、何かこう言葉にできない悲しさがある。それでも心内を吐かないだけで尊敬はする。

 それに何故か効かなくなる奴もいる。俺の家族は心読めないし、中学での友達も心の声が聞こえなかった。何か条件があるのかもしれない。何か怖いから、あんま使いたくないんだよな。


 話を戻そう。そう、俺がしょんぼりとしてテレパシーを使って教室に入ったとき。

 これはどうしても知りたかった。一日目から遅刻してくるアホに対して、目立ちたくない俺はどう思われるのか。ロッカーから飛び出したその時も気になりはしたが、ボロクソに思われてるかもしれないと考えると使用を躊躇った。あくまで遅刻に対する反応、それが知りたかった。


 これから一年間一緒のクラスメートの心内は───。


(初日から遅刻かー)(道に迷ったのかなー)(式ギリギリで危ない奴だな)(何て疲れた顔してるんだ)


 このクラスメイトは誰一人と心の中でも俺のことを馬鹿にする奴はいなくて心が美しいクラス………だと思ったら大間違いだ。

 これはただただ興味関心がない奴に向ける、薄っぺらな心のこもってない声だ。それでいいんだけどな。注目されるのは本望でない。無理に心配されたり、声を掛けられたりする方がきつい。

 だが初日からという遅刻をした俺に対し一つだけ他の人とは全くの別の、今も気掛かりな声が混じっていた。


『ふっふっふ、私の心を覗いてるね?』


「────っ!」


 こんな体験は過去にはなかったから、驚いて叫びそうになった。良く叫ぶのを我慢できたよ、俺は。

 慌ててテレパシーを中止。

 すぐさま声が聞こえた窓際の方向を見ると、明らかに普通の人間ではない、只者ではないオーラを纏っている女がいた。赤いリボンで側頭部を一か所結び、包帯の巻いてある右手で片目を隠している女。窓際の後ろ角に座った───。

 間違いない、あの心の声は絶対にこいつだ。

 俺が見ていることに気付いたようで、目が合うと「フッ」っと消えるような笑い声を上げて、直ぐに目を逸らした。あれは俺と同じ超能力者に違いない………


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


「おーい、ま〜た突然黙り込んで。何を聞きたいんだ?」


「あ、ごめん」


 また考え込んでしまっていた。悪い癖すぎる、直さないとな。全クラスの入場は終わり、沈黙になった空間。話そうとするとすぐに教頭が「新入生、起立!」と号令を鳴らした為、一段落起立してから会話を続ける。


「で、どうしたよ?」


「阿留多岐!あの窓際に座ってた、俺の席の後ろの右腕に包帯をまいた女子についてなんか知ってるか?頭に赤いリボンをつけた、何て言うか………いかにも只者じゃないような」


 隠す気のない悟りを開いた俺と同じ超能力者のような。すると阿留多岐は急ににやけ始めて、俺の肩をつんつんしながら、


「何だ、好きにでもなっちゃったのか。ユウキはあんな子がタイプなのか。癖はあるが可愛らしい子だったもんな」


「おい、なぜそうなる?俺はだな───」


「いや、大丈夫分かってるさ。教室入った時見つめ合ってたもんな。あそこで一目惚れってやつか。俺は見てたぜ。んーでも悪いな、中学同じじゃなかったしな。名前すら知らない。ああでも、ただ一つ分かることはある。彼女は魔法使い───、」


 テンション上がり気味に早口で阿留多岐は続ける。いちいち否定するのも面倒だな。だが超能力者ではなく、魔法使いと来たか。具体的な違いかは分からないが、確定したのはやはりあの女は只者ではない───ってとこか。阿留多岐はまだ言葉を続けた。


「だと思っているただの中二病だな。」

「え、」

「見れば分かるだろ?」


 素っ頓狂な声を出した時、初めて周りの視線に気づいた。ちょっと盛り上がってしまってすまないと、周りに頭を軽く下げる。何やってんだよ、俺は。今日はずっと何だかんだ注目を浴びている。


「テンション上がりすぎだぜ、全く静かにしろよな」


「うるさいのはお前もだろ、ったく変な声出しやがって。どこに驚く要素があったんだよ。キラキラの本物の魔法使い!がいるとでも思ってたのか。残念だがあれはただの中二病患者だ、かなり重度の」


 着席の合図がかかり、会話は一時途切れる。魔法使いなんている訳ない、ね。俺は俺が超能力者だから魔法使いがいても不思議に思わないし、彼女にテレパシーがバレたから本物だと思っているだけで、他の人から見ればあれはただの中二病なのも納得できる。


「中二病ね、分かったよ」

「魔法使いの存在なる夢を壊してしまった。すまなかったな」


 阿留多岐め、良い奴なんだが調子者だな。嫌いじゃないけど。

 後は俺が直接話して確かめるとしよう、直ぐの移動だったため定かでないが確か彼女の席は俺のすぐ後ろだった気がする。

 それに───、さっきから彼女をチラチラ見てるが、俺のバレたくない心を分かっているのか誰かに話す様子はないし、彼女はただ右手を見つめているだけだ。


 そこで一つ。

 そうだな、例えば突然友達に、「あいつ超能力者なんだぜ」と言われて信じる人がいるだろうか。

 まぁいないだろう、と思う。

 しかし、その友達が周知の本物の超能力者だったら───。少しくらい信じる人が出てきてもおかしくない。そう、きっと彼女は見た目の通り自分が能力を持っているのを隠すつもりなどなさそうだ。そんな彼女に俺に心を覗かれたと話したら。

 一応の一応の一応だ。石橋は叩きすぎて損はない。

 だから俺は彼女が超能力者………魔法使いか。どっちでもいいが、彼女に対して話さないように懇願しなければ。もう手遅れかもしれないが、ごく普通の高校生活を送るために。


 それからはどこの学校も変わらない文化のような校長の長い話を腰が痛いと思いながら聞き、阿留多岐と世間話的なもので親交を深めながら閉会宣言を待っていた。


 しばらくして、


「ったく、いつ終わるんだ?もうそろそろか?」

「この次に”担任教師の紹介”のプログラム挟んで、そしてそれが終わり次第閉会宣言。あとちょっとだな、ユウキ」


 何だ、担任は入学式前の教室にいたあのちょっと筋肉質のイケオジ先生じゃなかったのか。溢れ出る人柄っていうか、もう既に結構好きだったのに。残念だ。


「まだ分からないさ、同じ可能性だってある」

「だといいがな」


 そんな希望は消えて、俺のクラス(二組)の発表が回ってくる前に一組の担任としてイケオジ先生が呼ばれて体育館前のステージへ行ってしまった。イケオジ先生は「1年間よろしく!」と元気よく挨拶し、一組と貼り紙がある椅子へ腰掛けた。

 一組の人たちからは「優しそうだ!”あの先生”ほどではないがあたりだ!」とか言った声が聞こえる。羨ましいこの上ない。


 果て、次は俺達のクラスか。今体育館脇にいる老若男女の中から、さてどなたになるのだろうか。一年間同じということもあって、それなりにみんないい教師を祈っている様子だ。


「ユウキ、来るぞ」


 隣で阿留多岐が胸の前に手を合わせて祈ってる。誰を願っているか知らんが叶えばいいな。そんな力強く手を握って、そこまで熱くなれるってのも凄いことだ。気持ちは分からないわけでもない。


『一年二組の担任は、春夏冬めぐみ先生です!』


 遂にってわけでもなく一瞬で発表された。

 誰か分からないが、阿留多岐に続いてまたまた珍しい名字だな。アキナシか、どうやって書くのだか。

 そんなことより取り敢えず今は、一切の微動もしない静かな隣のクラスメートでも慰めてやるか。


「残念だったな。ま、そういう時だって────、」

「っしゃああああ、まじか!」


 隣に座っていた阿留多岐が、いや二組の男たちが一斉に叫びだした。ビビらせんな。喜びまでにタイムラグを使うな。それにしても流石に男たちに引けはとるが、二組の女子たちも手を合わせて嬉しそうに喜び合っている。他のクラスの男たちは少し残念がっているように見える。


「なんだ、そんなに良い先生なのか?」


「ユウキ。お前、めぐみ先生を知らないのか!朝に各々のクラスが記したある掲示板の前で天使のような笑顔で、一人一人全員に挨拶を交わしていた先生がいたじゃないか!ユウキも挨拶されたろ?そして気付いただろ!俺はきっとこの為に生まれてきたんだって」


「遅刻してきたんだぞ。俺は。思いたくても思えるはずないだろ。にしても大袈裟がすぎないか?」


「そんなことないぜ。ユウキも遅刻せずに来ていれば、今この一瞬の喜びを分かち合えたのに。残念だ、この嬉しさを共有できないなんてよ」


 周りに音符が浮かんでるような上機嫌な阿留多岐。

 なんか泣き出しそうじゃないか?

 でも、そんなになのか。クラスが盛り上がっている間にその若い女の先生は壇上へ移動し、そして二組と貼り紙がある椅子の前に立った。


 ───察しの良い、勘の鋭い皆様方は気付いたであろう。全く、仕組まれてるとしか言いようのない。


 ステージに登壇したのは、意外にも俺も知っている顔だった。


「おい、阿留多岐………俺も知ってた」


 顔を見た途端に今から三十分もしない間に起こった悲劇を思い出す。ロッカーから飛び出た俺、そこにいた先生。肩にかかるぐらいの髪を伸ばした、あの時教壇に立っていた───。


「春夏冬めぐみです!今年一年よろしくおねがいします!」 

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