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腹が減ってはなんとやら

 

「獣人だからって馬鹿にしてるんだろ? 貴族の遊びなんかに付き合ってらんねんだよ」

「違っ、あっ! 待って! 待って待って、ねえってば……!」


 女性が『待って』と言っているのにあえて無視をする男性なんて貴族棟には居ない。

 だからそんなことされると余計に追いかけたくなってしまう。


「付いて来んな。お前どっか行く途中じゃねぇのかよ」

「でもでもっ、この機を逃せばきっと後悔する気がしてっ……!」

「はぁ……あっそ」


 ゆらゆら揺れる尻尾を追って向かう先は、どうやら庭園のようだ。そこには草花に囲まれた東屋が3つあるが、あそこは恋人に人気のランチスポットだからこの時間じゃもう既に埋まってると思うのだが。


 そういえば一目惚れしたとか言っておきながら、相手に恋人や婚約者が居たらどうしましょう。もしかして東屋も恋人と待ち合わせしてたりして。

 今しがた恋に落ちたばかりなのにすぐに現実を突き尽きられるなんてショックすぎる。


「ッにしてもっ……はあっ、はっ、歩くの速っ、うわっぷ!」


 必死に追い掛けて追い掛けて、急に止まるものだから彼の背中に思い切りぶつかってしまった。東屋にはまだ程遠い場所。


「ご、ごめんなさい……って、あら? ここへ座るの?」

「お前に関係ないだろ」


 まぁ確かに仰る通りである。

 彼がどかっと座ったのは、木漏れ日が心地よい庭園入口にあるベンチのど真ん中。ズレてもらわねば私が座れない。


「違うわ! 先に確認しなきゃいけないことがあるのよ!!」

「ッ! 急に大声出すなよ……獣人は人間より耳が良いんだ」

「ごめんなさい……、えと、貴方、恋人は……」

「は? …………いねぇけど」


 これまたとんでもなく怪訝な顔をされ、でも答えてくれた。


「結婚を約束された方も!?」

「んなもん居るわけねぇだろ」

「そう! 良かった! じゃあ改めて聞くけど貴方のお名前は?」

「フツー逆じゃね? 名前が先じゃねーの?」

「ふふふっ! 私はロゼッタ·パールウッズよ」

「はぁ……ったく…………アルフ、苗字は無い」

「アルフ様ね! ではお近づきの印にランチをご一緒しても?」

「は!? んで一緒にメシ食わなきゃなんねーんだよ!? 誰かと待ち合わせしてんじゃねーの!?」

「まあ! この胸の高鳴りを抑えて違う方とお話するほうが失礼よ! それに生徒は学園内で自由に交流して良い決まりでしょう?」


 つい先程までの学園長のお話がそんなような内容だった。

 意見や生まれが違うからと先入観で否定せず、まずはゆっくり互いを知ることから始めましょう、と。


「あーーもう勝手にしろよな。座るなら向かいのベンチに座って……って、は!? なッ、おまッ、何してんだ!」

「お隣失礼しますね。ちょっと狭いけれど……仕方ないですよね、会話ができないもの」

「っ〜〜〜」


 ベンチのど真ん中に座る彼の身体に私の身体をピッタリくっつけて微笑むと、可愛らしく照れている。

 太ももに体温が伝わってきて奥が熱い。


 驚いたわ。

 私って恋をするとこんなにも積極的なのね。

 なのに狼さんのくせして首筋を赤くして距離を取られた。ベンチの端っこに移動して背中まで向ける。

 なら私はその背中にくっついちゃおうかしら。


「ッ──!? お、お前さっきから何なんだよ……! 馴れ馴れしいんだよ! 貴族の遊びっつーのにも程があんだろ!?」

「ふむ、恐らくアルフ様の考えているような“貴族の遊び”なんて私には恥ずかしくて出来ないわね」

「っ、ならあれか? お前虐められてて罰ゲームとかさせられてんだろ?」

「まあ! 面白いこと仰るのね! 私は公爵家の一人娘よ? 国内では貴族の一番上だしその上は王族しか居ないわ。誰に虐められるっていうの? むしろ誰が虐められるっていうの?」

「こ、こうしゃく……。なら、余計に何で俺に関わんだよ。俺と話したってアンタの特になんねーだろ」

「だから最初に言ったじゃない! 私は貴方に一目惚れをしたの! 嘘なんかついてないわ!」


 顔を覗き込んでちゃんと瞳を見て伝えた。

 だって私は本気で恋をしたんだもの。変なふうに誤解されたくない。


「っ〜〜〜、なら、お前は、今ここで俺にキスされても構わないってことだよな?」

「へ?」


 理解が追いつかないうちにグイと肩を掴まれ押し倒される。

 銀の鋭い瞳が近付いて来て、ぺろりと歯を舐める彼にはしっかりと犬歯が生えていた。


「あ……」

「良いのか? お嬢様が獣人にぐちゃぐちゃにされても」

「あ、あの……ハイ」

「ハッ、やっぱり恐……は?」

「っ私のこと、ぐちゃぐちゃにして下さい」

「!? !!? !!??」


 ロマンチックに目を閉じてその時を待っているのに、待てど暮せどやってこない。

 どうしたのかしらと薄っすら目を開けると、アルフ様は頭を抱えて溜め息をついていた。


「あ、あの……? どうなさったのですか……?」

「い、いや、腹が減ったなと思って……」

「ふふ、それもそうですね! まずは腹ごしらえです!」

「っ………はあ……」



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