15.カーテンコール(前編)
宿泊研修から2週間後。
『あなた達も、一躍時の人ね・・』
哲也の母が、家の近くで買って来た週刊誌を見ながら、そう呟く。
哲也の母が呼んでいる記事の見出しはこうである。
小学校の教員含め6名が熊に襲われる。
子ども達を守った二人の先生は、重症ではあるが無事、命に別状なし。
車は大破、6人を襲ったのは超大型のツキノワグマか?
『お母さん、何、時の人って?どういう意味』
哲也の妹、みつ子が母の腕を掴みながら、駄々をこねる様に聞く。
『有名人、有名よ、みつ子のお兄ちゃんは今や、誰もが知る有名人になったのよ』
『お母さんも、いまちょっと恥ずかしくて、いや面倒でスーパーのパートに行きたくないわ・・』
事件から2週間がたち、やっと少しずつ静かな生活が戻ってきていた。
『哲也、そういえば今日、あなた達、皆で先生達のお見舞いに行くんでしょ?』
『何時に行くのよ?』
『ウン、9時に小学校に集合の約束をしてるんだ』
『9時って、アンタ、何ユックリご飯食べてんの?もう8時過ぎてるわよ』
『食べたら、直ぐ行くよ。もう準備できてるもん』
哲也はそう言うと、茶碗に残っていた最後のご飯を口へかきこんだ。
ご飯を食べ終わった哲也は、急いでみんなが待つ小学校へ自転車を走らせた。
まだまだ暑い日は続いていたが、夏休みも終盤になり、顔に吹き付ける風が何となく涼しく感じて来た。
勝平小学校に着くと、既に他の3人は来ていた。
自転車を止めると、3人の楽しそうな笑い声が聞こえて来た。
『カッチ、ナオケン、委員長、何、笑って話しているんだよ?』
『何か、楽しい事あったのかよ?』
いずみが、笑顔で哲也に話しかけて来た。
『ねぇねぇ、病院で働いているうちの母さんから、良いニュースを聞いたんだよ』
『良いニュースって?』
『テッカ、聞いたら爆笑間違いなしだぜ』
ナオケンがお腹を押さえ、笑うのをこらえる様に言った。
『実はね、加賀谷先生が、福岡先生にプロポーズしたんだって・・』
『病院の看護婦さんの中では、もう知らない人はいないんだって』
『へぇ、二人が結婚すればって願ってたけど、それはおめでたい事じゃん』
『なんで、それがおかしい事なの?』
『加賀谷先生が、福岡先生にプロポーズした台詞がスゴイの』
『僕は貴方に殺されかけました。もう少しで死ぬところでしたよ。』
『僕と結婚してくれれば、水に流してあげます。だからどうか僕と結婚して下さいだって』
『ストレートだね、ソレ、それで福岡先生は、どう答えたの?』
『フフそれがね・・』
『そうね、アナタを殺し損ねた責任をとって、今度こそアナタの死に顔を見届けてあげるわ』
『覚悟しなさい!だってよ』
いずみが言おうとした言葉を、カッチが代わりに、福岡先生の真似をして言った。
『何ソレ、ハツハハハ』
哲也が笑うと、他の3人ももう一度ドット笑った。
3人は、それから商業高校の前のバス停に行き、市立病院行のバスに乗る。
『ねぇねぇ、私達、先生達の結婚式に呼んでもらえるかなぁ』
『そりゃ、呼ぶでしょ。俺たちいい子だもん』
『ナオケン、だもんって、キモ』
『うるせぇ、カッチ、テッカ、別に気持ち悪くないよな?』
『ナオケン、スマン、キモイよ』
『ああ、コイツ裏切りやがった・・』
3人のやり取りをみて、いずみが堪えきれず笑い出す。
そして笑顔の4人を乗せたバスは、いつもどおり走り出した。




