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山姥(やまんば)  作者: 野松 彦秋
最終章 脱出
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12.カッチのお祖父さんの頼み

『火ギャあ、火がワシにぃ』


加賀谷先生の声が聞こえて来た。


火が一瞬で大きくなり、その火が、一瞬加賀谷先生の身体を覆(おお)い隠す。


その時、哲也の視界に奇妙な情景が入り込んできた。


加賀谷先生の目から、紅いモノが出て来たのである。


それは、寄生虫が宿主の死を覚悟し、宿主の死に自分が巻き込まれないように逃げる様であった。


最初は、紅い糸が目から出て来るように見えた。


奇妙な点は重力を無視し、目から垂直に上空へ伸びていくのである。


そして、その紅い糸はある程度の上空で止まり、小さい物体になったのである。


紅い目が形を成した時、またまた奇妙な事が起きた。


小さい物体をよく見ると、金色の糸の様なモノが巻かれていたのである。


(なんだ、あの金色の糸の様な長いものは・・)


哲也が、そんな事を思っていると、その紅い物体は哲也達が来た方向に飛んで行ってしまった。


しかし、その後哲也が見た金色の糸がユラユラと風に吹かれて、落ちて来た。


その金色の糸は、まるで意思のある生き物の様に、哲也の元へ近づいてくる。


傍に来たと思ったら、自然に哲也の手に巻きついた


哲也の手に金の糸が巻き付いたと思うと、聞いた事のある声が聞こえて来た。


(テッカ君、ワシの声が聞こえるかい)


『・・カッチのお祖父ちゃん』


(そうじゃ、テッカ君、よく聞いてくれ)


(山姥が加賀谷先生の身体をあきらめ、出て来たのがあの物体じゃ)


(あ奴、相当、力を消耗しておる。ワシは、生きてるときに、あ奴を封印できず、返り討ちにあった)


(しかし死の間際に、ワシの魂の一部をあ奴の身体にまとわせる事が出来たのじゃ)


(あ奴に悟られまいと、糸になり、ずうっとあ奴の力の一部を押さえていたのじゃ)


(しかし、先程、加賀谷先生に力を分け与えたので、その力が弱まっておる)


(君の力を貸して欲しい)


(あやつは、先生達の抵抗で消耗し、火を恐れ、この世界から、この絵巻物の世界から逃げる事を考えておる)


(あの速度じゃ、すぐに、克彦やナオケン君たちに追いついてしまうじゃろう)


(哲也君、ここからワシの孫、克彦に届くように念じて欲しいのじゃ。ワシの魂を通じて、克彦にテレパシーを送る)


(克彦が持って来た瓢箪を開けろと、克彦に伝えてくれ)


『エッ、そんな事できないよ』


(ワシの魂の糸が君の手に絡まっている内に、強く念じてくれ、早く!)


カッチのお祖父さんに急かされて、哲也は焦った。


そして、追い込まれた哲也は無意識にトランシーバーを取り出し、そしてトランシーバーに呼びかけた。


『カッチ、聞こえますか?そっちに山姥が向かってます。』


『こちらテッカ、今すぐ、お祖父さんの瓢箪を開けて下さい』


『カッチ、聞こえますか?そっちに山姥が向かってます。』


『こちらテッカ、今すぐお祖父さんの瓢箪を開けて下さい』


(届け、届け、カッチに届け・・)


哲也は呼びかけと同時に心の中でそう強く念じた。


何度目かの呼びかけが終わった時、腕に巻かれて糸は引っ張られていくように、山姥が飛んでいった方向に風に流されて行ってしまった。


紅い物体が加賀谷先の身体から離れ、飛んでいってから、僅か数分の出来事であった。


金色の糸が手から離れる直前、哲也の耳に、又別の声が聞こえた。


(我が魂よ、雨になってこの火を消せ、助けてくれたあの人達を炎から救い出せ!!)


その声は男の子の声だった。


そんな声が聞こえたと思った矢先、突然どしゃ降りの雨が降り始めた。


ただの漆黒の闇しかなかった空から、突然雨が降り注ぎ、気がつけば哲也の周囲の炎を消していく。


目まぐるしく変わる自分の前の情景に、翻弄された哲也であったが、ふと我に返り、加賀谷先生を探す。


直ぐに二つの影が目に入って来た。


横たわる加賀谷先生の身体と、その前で立ち尽くす福岡先生であった。


哲也は急いで二人の傍へ向かった。


そして役者は代わり、舞台は最後の幕を開ける。

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