1 幽閉生活
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「僕にはもう居場所がない」と思った。
ここにいられる時間はあと少しだ…そう直感的に考えていた。
17歳の夏、大きな屋敷の大きな部屋のベットでぼーっとしていた。
大きな部屋なのに、窓は小さい。小さい窓から、空をたまに眺めた。
僕…デオラデはこの部屋から出ることは許されていない。
暗い部屋のベットの上で、天井を仰いだ。
少しジメジメした、陰湿な空間。
「早く具合が良くなると良いね、薬はちゃんと毎日飲んでおくれ。」
毎日意味もなく訪れる医者は定期的な言葉を言い残し、いつも部屋をあとにする。
あともう少しで、もしかしたら僕…ほんとうに…
そんなことを思いながら、またぼーっと天井を眺めた。
ゴーンと12時の鐘が鳴った。
その鐘の音を聞いて、心臓がドクンっと鳴った。
「…。」
鐘を合図に、僕はベットから飛び起き、床下に隠している洋服を取り出して
静かに着替えた。そう、それは慣れた手つきで。とっても静かに。
さっきまでの鬱々とした気分が嘘のように、どうしてか心が。足取りが軽い。
この鐘の音___僕にとっては幸運の知らせ。
そして、部屋の隅にある隠し扉に手を伸ばす。
「いってきます。」
小さく心の中でつぶやき、僕は隠し扉を開き、吸い込まれるように
この部屋を後にした。
そんなことはこの屋敷にいる誰も、気づくことは今までなかった。
「ハレベルさん…。」
僕にとっての生き甲斐である彼女が、外で待っている。
隠し扉から到着した先は、奥にある森の茂み。奥まっていて誰かが訪れるような場所ではない。
「あ…、また来たのね。また私の修行の邪魔をしに来たの?」
長く絹のような、サラサラの黒髪が視界にちらつく、そして彼女の綺麗な声が耳に入った。
生い茂る草花の背景がよく似合っていた。
「うん、また修行の様子を見たくて…。」
「デオラデは物好きね。」
ちょっとだけにこっと笑った気がした。
目の前にいる彼女…ハレベルさんはいつもここで「修行」といって身体を動かしている。
何をしているかは問題ではなくて、ただ彼女を見つめる時間が好きだった。
初めて出会ったあの日から____僕はずっと屋敷を抜け出して、彼女に会いに来ていた。
もちろん、約束をしているわけではない。彼女がいない日もあった。
それでも僕は___とにかく、通い詰めていた。
僕にとってささやかな、「生」を感じられれる時間だった。
心臓の音がちゃんと聞こえるんだ。
こんな時間がずっと続けばいいと思っていた。
そんな時だった______
「「「「バー――――――――――ンっっ!!!」」」」
大きな銃声音、爆発音が聞こえた。
同時に、何かが燃えるような匂いが漂ってきた。
「っ…。」
びっくりして、立ちすくみ動揺をしている僕は、彼女の顔を見た。
そこには変わらない平然とした顔がそこにあった。
「珍しい。ついにこのあたりにまで来るようになったのか。」
「私は行かなきゃ。君はお家に帰って___」
そう言いかけた時、ハレベルさんの背後に見たこともないような怪物が立ち尽くしていた。
それはとても大きくて、不格好で、醜くて、恐ろしかった。
辺りの草花は踏みつぶされている。
「あっ…。」
ハレベルさんが背後の敵に蹴りを入れようとしたとき…、
怪物はそれよりも早い速度で彼女を遠くまで蹴り飛ばした。
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