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朝焼け

作者: 皆川幸也

 強い北風が網戸を鳴らしている。

 冬は好きな季節だった。

冬の冷たく乾いた外気が全身の毛穴を,そして気を引き締めさせる。

1日を頑張ろうと,それだけでそう思える気がした。


いつからだろう。

外が,世界が自分から遠く感じはじめたのは。

何も考えずに外に向かって1歩踏み出せていた時を懐かしく思うのみだ。

教室の扉が。校門が。改札,玄関扉,自室の扉。

今はただ,自分と社会を隔てる壁として屹立している。

繋がり合えた手が,踏み出せた足が,語り合えた声が,通わせられた心が。

触れられないと,地に着かないと,届かないと,伝わらないと気づき始めて以後,

四肢の実感,声,心は次第に暗闇へと葬り去られ,

気がつけば体は言うことを聞かなくなった。


幸いにしてか,モノを考える頭は今も鮮明である。

あれほど惜しかったはずの時間は湯水のように使ってもまだなお潤沢に存在し,

“回帰すべき自らの姿“と”惨憺たる現状“の明らかなる差を否が応でも自覚させられる。


他者との触れ合いはなくとも他者の存在を実感できるのは幸か不幸か。

フィルター越しに見るかつての友人たちはインフルエンサーのようにさえ見える。

忙しくも充実した私生活,退屈とは縁遠い日々を過ごす彼らと,

1枚に共に写ることはもうないのだろう。

 

 私は何も為し得ていない。これからも何かを残すことは叶わない。

 何かを為すために生まれたのならば,私にはその役目は少し重すぎたのだ。

 もう十分だ。

 

ベランダの窓を開けて外に出る。

風は冷たく体に吹きつけ,外気は凍るように冷たい。

 

「ああ,死ぬには少し寒すぎる。」


東の空は少し白みはじめていた。


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