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藤城皐月物語 2  作者: 音彌
第3章 広がる内面世界
98/142

202 相談相手

 藤城皐月(ふじしろさつき)は母の小百合(さゆり)検番(けんばん)であったことの話を続けた。

明日美(あすみ)、もう稽古も仕事も頑張り過ぎないって言ってたよ」

「えっ? そうなの?」

「うん」

「あの子がそんなこと言うなんてね……何か心境の変化でもあったのかしら」

 そのきっかけは自分だよ、と皐月は北叟笑(ほくそえ)んだ。背徳感に思わずゾクッとした。この悪魔的な感覚は癖になりそうだが、明日美の今の状況を考えると、こんなことで喜んでいる自分こそが悪魔みたいな奴なのかもしれない。

「高卒認定試験に受かったら大学受験をするようにって、(りん)姐さんから勧められたって言ってたよ」

「その話は知らないな……。高卒認定試験の勉強をしていることはお母さんから聞いて知ってたけど、大学受験か……」

 皐月は小百合と明日美の関係をよく知らない。明日美の話しぶりだと、母とはあまり親しくないことはわかっていたが、母の話しぶりだと、二人の関係は明日美が言うほど悪くないような気もする。

「ママ、知らなかったんだ」

「うん、知らない。凛子(りんこ)は口が堅いから、明日美の大学受験のことは誰にも話していないんだろうね。だったら、この話は聞かなかったことにしなきゃいけないわね。皐月、あんたも真理(まり)ちゃんに話しちゃダメだよ」

「あっ、うん。わかった」

「凛と明日美は馬が合うみたいだからね。凛なら大卒だし、明日美のいい相談相手になれるだろうね」


 凛は明日美と一緒に仕事をしたがっている、と真理から聞いたことがあった。凛が明日美と同じ遠方のお座敷に出る時は、家に帰って来ないことが多いらしく、真理はそのことを嫌がっていた。

 そのせいか、真理は明日美に対してあまりいい感情を抱いていない。凛と明日美の関係性がわかった今では、皐月は真理の気持ちを逆恨みだと思っている。

「ママは明日美の相談相手にはなれないの?」

「私? 私は明日美の新人時代のお世話係だったからね。仕事以外の相談は私以外の人にした方がいいの。役割がはっきりしていた方が、あの子にとってもいいでしょ」

 皐月は明日美からよく「あなたのお母さんにはいつも迷惑をかけている」と聞かされてきた。母からも「明日美のフォローは大変」という話を聞いたことがある。

 二人が皐月に具体的な話をしなかったのは、皐月がまだ幼い子供だったからだ。芸妓の百合と明日美の関係については、もう少し先になってから、それぞれに聞いてみたいと思った。

 皐月は話題を修学旅行のお土産に変えた。みんなに何が欲しいかを聞き、明るい話へと誘導した。みんなが好き勝手なことを言うので、お小遣いの上限の七千円を超えてしまいそうだ。規則なんか守っている場合ではなくなりそうだ。


 夕食が終わって風呂に入り、皐月は部屋に戻ってPCを起動した。明日の委員会に備えて今日中に『修学旅行のしおりを2ページでまとめる』の草稿を書いてしまおうと思った。

 修学旅行の全体像がわかるようにするため、まずは修学旅行の目的や特に重要な規則の要点を書き出しておけばいい。過去のしおりを参考にすればよいので、作業としては大したことない。

 修学旅行実行委員の担当をしている北川先生から渡された資料の「集団行動と約束」と「旅館での過ごし方」をじっくり読むことから始めた。

 規則なんか読んでもつまらないだろうと思っていたが、実際に読んでみると修学旅行の様子がリアルに想像できて、なかなか面白い。

 だが不満も見つかった。過去のしおりには細かい規則が箇条書きにされているが、その規則には理由が何も書かれていない。

 皐月が考えた修正案は、全ての規則に一行ずつ理由を書く、ということだ。理由を記しておけば反発や無視する者も減るだろうし、旅行中の治安も守れる。

 明日、このアイデアを副委員長の江嶋華鈴(えじまかりん)と書記の水野真帆(みずのまほ)に提案してみることにした。


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