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藤城皐月物語 2  作者: 音彌
第3章 広がる内面世界
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188 委員会の進行

 いよいよ修学旅行実行委員会のしおり制作が始まった。しおり作りは実行委員にとって最大のミッションだ。ここさえ乗り切れば、後は教師主導で委員会は進んでいく。

「じゃあ資料の1枚目を映して」

 委員長の藤城皐月(ふじしろさつき)が副委員長の江嶋華鈴(えじまかりん)に指示を出した。黒板には書画(しょが)カメラから大きくしおりの表紙が表示された。児童のクラスと名前を書く欄以外が空白になっている。

「僕たちが借りている昔のしおりを見ればわかると思うけど、この空いたところに表紙を飾るイラストを描かなければならない。修学旅行の日程や行き先、スローガンも表紙に上手くレイアウトした方がいいだろう。表紙のイラストは黄木(おおぎ)君に描いてもらうことになっていて、スローガンは筒井(つつい)さんので決まっている。表紙のレイアウトなんだけど、黄木君できる?」

「いいよ。レイアウトも自分で決めないと、絵なんて描けないから」

「ありがとう。助かる」

 皐月たちが話している間、書記の水野真帆(みずのまほ)はずっとキーボードを叩いて、今話したことをタブレットに入力している。真帆は児童会でも書記をやっているので、普段からこんな風に仕事をしているのだろう。

 皐月は真帆に同じクラスの中学受験組の二橋絵梨花(にはしえりか)栗林真理(くりばやしまり)とは違った有能さを感じた。


「じゃあ江嶋、次のページ頼む」

 次のページはしおりの目次となっていて、各項目のページ数の部分が空白になっている。ここはしおりが完成した後に対応するページ数を入れることになっている。

「次」

 テンポを速めたい皐月は言い方をシンプルにした。ちょっと感じが悪く聞こえるかもと思ったが、華鈴は表情を変えずに淡々と皐月の指示に従っている。

「ここには学校側が考えている修学旅行の目的が書かれているね。実行委員がやることは特にないだろう。次」

 次のページには日程が書かれていた。ここもすでに学校側で決められたことだから実行委員は何もすることがない。

 その次のページは空白になっていて、ただ一行だけ「修学旅行のしおりを2ページでまとめる」と書かれていた。どういうことだろうと考えていると、居心地の悪い間が空いてしまう。

「空白のページのところだけど、ちょっと俺が借りているしおりを見てみよう。過去の実例を見れば、何がしたいのかがわかるかもしれない」

 華鈴に皐月のしおりを手渡して、該当のページを書画カメラで大写しにしてもらった。

「俺の持っているしおりには修学旅行のテーマやルール、あとは実行委員が書いたイラストや、謎のクイズが書かれているな……これ、どういうことだろう? みんなのしおりはどう?」

 意見を聞いてみると、みんなのしおりも同じ構成だった。おそらくしおりの作り方がテンプレ化されているのだろう。ただ、バリエーションはあって、しおりの中身が手書きの年もあれば、活字で印刷されている年もある。イラストやクイズがない年もある。

「ちょっと次のページもめくってみて」

 皐月の手持ちのしおりも、このページに該当するところは手書きで書かれていた。次のページにはルールの詳細が活字で印刷されていた。

 華鈴がページを進めた今年度の資料もそのようになっていて、「集団行動と約束」とタイトルが振られていて、その下に箇条書きで細かい決まりが書かれている。

「わかった。たぶん『修学旅行のしおりを2ページでまとめる』って書かれているところは、修学旅行の目的や規則の重要なところだけをまとめることだ。この2ページだけ見れば修学旅行の全体像がわかるようにしたいんだな」

 皐月は先生の指示を解読するのに苦労した。概要とかもう少し抽象的な言葉を使って説明してくれたらわかりやすいのにと思ったが、小学生相手に言葉を選ぶのは先生にも難しいのかもしれないと理解した。


「じゃあこのページでやるべきことを整理してみるね。まずはここに修学旅行のルールの要点を書くこと。これは今年の実行委員の特色を出せるところだな。俺たちが修学旅行で何を大切に考えているかを表現できる」

 言い方が抽象的になってしまい、皐月は実行委員の全員には理解されないだろうと思った。ここの文言は話し合いで決めるよりも、自分で決めてしまう方が楽だと思うが、そんなことをしたら華鈴に反発される。

「細かい話になるけれど、このページを手書きにするかワープロで打つかも決めないとね。あとはイラストを入れるかどうか。クイズはどうするか。とりあえずクイズはどうする? 入れた方がいい人は手を上げて」

 誰も手を挙げなかった。皐月は誰かが手を挙げたら、その子に作問してもらうつもりでいた。

「じゃあクイズはなし、と。イラストはあった方が誌面が華やかになるから外せないと思う。そういうわけで、イラストは実行委員全員に描いてもらうね。ワンポイントで修学旅行を連想させるようなイラストがいいな」

「マジかっ! 俺、絵下手なんだけど」

 6年2組の中島陽向(なかじまひなた)が抵抗してきた。陽向の文句は沈黙よりもマシだが、少しウザく感じた。

「俺の持ってるしおりのイラストなんて下手くそなのばっかだぞ。でも、それがいい味出してるんだよな〜、手作り感があって。イラストは1個でいいから描いてほしいな」

「わかったよ。ホント下手だからな」

「ありがとう。恩に着る」

 他の委員からは特に抵抗がなかった。皐月はこれを全員了承してくれたと考えた。

 だが陽向がどうしても描きたくないと言えば描かなくてもいいと言うつもりだった。もし他の委員が無言の抵抗でイラストを提出しなくても、それは仕方がないことだと割り切り、決して怒らないようにしなければならないと思った。

「ここに書く修学旅行のルールをまとめるのは俺と副委員長でやるよ。江嶋、いい?」

「はい」

「ありがとう」

 皐月は勝手に華鈴と二人で書くことを決めてしまったが、華鈴は素直に皐月の指名を承諾した。

 皐月はこの作業を自分一人でやろうと思っていたが、華鈴と二人でやってみたくなった。それは華鈴と一緒に帰り、華鈴の部屋に行った時の事を思い出したからだ。華鈴と二人でしおりを作ることになるかもと思うと、皐月は仕事を忘れてドキドキしてきた。


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