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藤城皐月物語 2  作者: 音彌
第3章 広がる内面世界
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186 修学旅行のスローガン

 帰りの会が終わり、6年4組の教室内は下校する児童でざわめき始めた。藤城皐月(ふじしろさつき)筒井美耶(つついみや)は修学旅行実行委員会に出席するため、1組側の階下にある理科室へと向かった。

 委員長になった皐月は初回の時よりも楽しみな気持ちがなくなっていた。委員長としての精神的な重圧に加え、相性の悪い修学旅行担当の北川先生と顔を合わせるのが鬱陶しいからだ。

 実行委員の仕事内容がまだよくわかっていないことも不安材料の一つだが、仕事に関しては副委員長の江嶋華鈴(えじまかりん)に頼ろうと思っているので、むしろ楽しみでもある。


 皐月と美耶が理科室に入ると、3組の実行委員の中澤花桜里(なかざかおり)が話しかけてきた。美耶と仲の良い花桜里なので、美耶のついでに皐月に声をかけた感じがした。

「今日、北川先生が急用で委員会に来られないって。委員長たちが中心になってスローガンを決めて、しおり作りの役割分担をしておけって言ってたよ」

「先生来ないんだ……」

 花桜里は担任の北川から今年度のしおりの資料を託されていて、皐月に一冊の冊子を手渡した。

「じゃあよろしく!」

 皐月への伝言が終わると、花桜里は美耶を皐月から引き離してお喋りを始めた。美耶と仲のいい子が同じ委員で良かった、と二人の姿を見てホッとした。

「これが今年のしおりか……」

 皐月が花桜里から受け取ったプリントを見ていると、江嶋華鈴が覗き込んできた。

 資料はしおりのたたき台となるものだ。この冊子には修学旅行の概要と日程や規則、タイムテーブルなど、学校に決められたものが印刷されていた。

 冊子の表紙に書かれているメモ書きを見ると、実行委員が手掛けるのは表紙の扉絵など、これら以外の箇所になるようだ。

 そんなに自由にさせてもらえるわけじゃないんだな、というのが皐月の第一印象だった。だが、やれることが限定されているので、思ったよりも制作で迷うことはなさそうだ。

「江嶋ってプリントを映すプロジェクターみたいなやつの使い方ってわかる?」

書画(しょが)カメラね。わかるよ」

「じゃあさ、この資料をみんなで見たいんだけど、書画カメラでできるかな?」

「うん、こういう作業はやったことあるから大丈夫」

「すげーな、さすがは児童会長。こんなの俺たち普通の児童は触ったことないから、使い方わかんねーや。後でみんなとしおりを見る時にこれらの操作、頼むわ」

「いいよ。私、こういうの好きだから」

「ありがとう。やっぱ江嶋は頼りになる」

 皐月は華鈴が自分に指図をされることに抵抗があるのではないかと思っていたが、快く補佐を引き受けてくれたので安心した。児童会長が自分の指示に従っているところを他の委員に見せることは委員長の権威付けになる。これで今後の修学旅行実行委員会をスムーズに進める自信が付いた。


 やるべきことが見えたことと、北川がいないことで皐月のやる気が高まってきた。早速、児童だけの委員会を開くことにした。

 まず最初に修学旅行のスローガンを決めることから始めた。昨日の委員会で北川からスローガンを考えておくようにと言われていたので、みんなが考えてきたものを集めて板書した。

 一人だけ早く帰っていた3組の田中優史(たなかゆうし)と、イラストを描くこと以外に関心のない1組の黄木昭弘(おおぎあきひろ)はスローガンを考えてこなかった。投票の結果、4組の筒井美耶の『学ぼう歴史、深めよう友情』に決まった。

「ちょっと〜、恥ずかしいよぉ〜。他の人のにしよ?」

 真っ赤な顔をして美耶が決定の撤回を要求してきた。

「いいじゃん、恥ずかしがらなくたって。8票中の3票も得票したんだから堂々としろよ」

「だってこれ、昔のスローガンをパクっただけだよ」

「今の6年生なんて誰も昔のスローガンのこと知らないよ。それに筒井の意志も入ってるじゃん。自分の意志で『絆』を消して『友情』にしたんだろ? 言葉選びはその人のセンスがモロに出るからな。だから筒井のスローガンはただのパクりじゃないって」

 美耶の3票のうち1票は皐月が入れたものだった。あとの2票は誰の投票なのかわからない。仮に美耶が自分に票を入れたとしても、あと1票は誰かが入れた。この結果は立派なものだと思った。


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