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藤城皐月物語 2  作者: 音彌
第3章 広がる内面世界
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112 みんな幸せになればいい

 今日の授業は全て終わった。放課後はみんなで校庭で遊んでから帰ろう。これが小学六年生の藤城皐月(ふじしろさつき)の願いだ。

 しかし、みんなで遊びたいと思っても、今時の小学生は忙しいのであまり人が集まらない。スポーツクラブや塾などに通っている子が多く、昼休みのように大人数で遊ぶことがなかなかできない。習い事がなくても、学校が終わればさっさと家に帰りたいという子もたくさんいる。


 皐月は最近、放課後に友達とバスケの真似事をするようになった。皐月たちは授業くらいしかバスケの経験がなく、リングにシュートを打つだけという、単純なことでしか遊べない。チームを作って試合をしてみたいと思ったこともあるが、チームを作る5人ですらなかなか揃えられない。

 皐月の放課後はたいていスケベな花岡聡(はなおかさとし)や、オカルトマニアの神谷秀真(かみやしゅうま)、鉄道オタクの岩原比呂志(いわはらひろし)と遊んでいる。もう一人いればバスケのチームができるが、この4人が揃うことすらあまりない。誰でもいいからもう一人連れてきてチームを作ったとしても、相手になるチームは簡単には見つからない。

 放課後にバスケをしようと思うと、体育館はクラブ活動などで使用されているので、校庭の隅にあるコートを使わなければならない。

 そこで遊んでいると、ときどき学校帰りの子たちから声をかけられる。帰宅後に用事がある子でも、ちょっとだけならと遊んでいったりすることもある。そういう時は試合ができなくても楽しいが、試合をするほど人が集まらないので、身も心も不完全燃焼になりがちだ。


 この日は聡と皐月の二人でダベりながらシュートを打って遊んでいた。他愛もないことを話しながら、まったりとボールを投げるのも楽しい。それでも、皐月は夏休みに入屋千智(いりやちさと)と体育館でやったワン・オン・ワンを誰かとやってみたいと思うようになった。

 特に千智とはもう一度戦ってみたい。だが皐月はまだ千智の相手になる腕ではないので、どうせやるなら、もっと上手くなってからにしたい。

 皐月は聡とは1対1の勝負をしたいとは思わなかった。皐月は千智に追いつくため、一人遊びを野球のピッチングからバスケのドリブルに切り替えた。そのため、聡とはバスケの実力にかなり差がついてしまったからだ。聡から勝負をしたいと言い出さない限り、皐月からワン・オン・ワンに誘うつもりはない。

「先生、今の班、楽しそうだな」

 バスケに飽きたのか、聡が話しかけてきた。

「まあね。でもそんなに楽しそうにしてるか、俺?」

「藤城は筒井(つつい)の隣にいた頃よりも楽しそうだし、何よりもまわりの女子が楽しそうだ。栗林(くりばやし)とか吉口(よしぐち)とか二橋(にはし)さんとか」

「なんで二橋さんだけ『さん付け』なんだよ?」

「だって、あの子ってなんか尊くないか? なんかリアルに光って輝いてるし。お前、よくあんな子と普通に口きけるよな」

 二橋絵梨花(にはしえりか)が尊いという聡の感覚はわからないでもない。清楚を絵に描いたようなたたずまい、透明感あふれる白い肌、日本人離れした目や髪の色。勉強はできるしピアノも弾ける。クラスの男子のほとんどは絵梨花に惚れているんじゃないかって思うことがある。


「俺も最初は近寄り難いかなって感じてたけど、実際話してみると他の子と大して変わらんぞ。明るいし気さくだし、結構面白いこと言うし」

「それは藤城が二橋さんのいいところを引き出したんだよ。さすが先生だな。あの月花(げっか)でさえ二橋さんと話す時、硬くなってるくらいだからな」

博紀(ひろき)はな……わかりやすいんだよ。好きなタイプの子の前だと緊張しちゃうんだ。もしかして花岡も二橋さんの前だと緊張しちゃうのか?」

「クラスの男子だったら誰だって、二橋さんの前では緊張するだろ? お前は全然みたいだけど」

 聡とはよく女子の話をしてきたが、雨夜の品定め的な話はしても、お互いに自分の内面を告白するような話はしてこなかった。

「そうか……花岡でも緊張するのか。花岡はおっぱいの大きい子が好きだから、二橋さんのことを意識してたなんて思いもしなかったわ」

「二橋さんはな、そういうおっぱいとかの対象じゃないんだよ。藤城にはそういう感情はわかんねーかな? お前って、女子に対して誰にも態度変わんねーし。俺、藤城のそういうとこってよくわかんねぇんだよな」

「ん〜、まあ俺も人の気持ちとかよくわかんないから、花岡の言う尊いっていうのも何となくくらいしかわからないっていうか……。でも意外だな。花岡が二橋さんのこと好きだったなんて」

「好き? ……ああ、そうだな、好きなのかもしれないな……。藤城は好きな子なんていないだろ」

「好きな子か……仲のいい子はみんな好きだけど、そういう答えを求めてるわけじゃないもんな。恋愛感情みたいなのは最近芽生え始めたような気もするんだけど……」

 誰にも知られたくないような、でも誰かに聞いてもらいたいような……。皐月は聡とならそんな話をしてもいいかな、と思い始めた。

「誰だよ、その相手は?」

「それがよくわからないんだ。誰なんて決めらんねぇ……。俺に関わってる女子なら全員に、恋愛感情みたいなのを感じている気もするし……」

「ヤバくねぇか、それ。そんなんだったらお前にかかわった女、みんな不幸になるじゃねーか」

「人聞きの悪いこと言うなよ。みんな幸せになればいいんだろ」

 聡から憎しみのエネルギーを感じ、皐月はイライラしてきた。


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