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藤城皐月物語 2  作者: 音彌
第3章 広がる内面世界
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180 一年前、いつも隣にいた女の子

 低学年の子たちの返却ラッシュがピークを過ぎ、図書室のカウンターに空白の時間ができるようになった。

 誰もいないタイミングを見計らって藤城皐月(ふじしろさつき)入屋千智(いりやちさと)が本を借りに行くと、6年生の図書委員の野上実果子(のがみみかこ)が不機嫌そうな顔をして皐月を見ていた。5年生の時の実果子はいつも教室でこんな顔をしていたので、同じクラスの男子だけでなく、女子でさえも実果子に話しかける子はいなかった。

「何しに来た?」

「何しにって、さっき本を返したから新しく本を借りに来ただけじゃん」

 皐月の隣にいる千智が少し後ずさりをしたのを感じた。茶髪の根元が伸びたプリン頭の実果子は見た目が怖い。こんなビジュアルでよく図書委員が務まるなと思うが、実果子は笑うと優しい顔になるので、小さな女の子たちからは慕われているようだ。

「昨日も本借りたよな。もう返したのか? ちゃんと読んだのか?」

「読んだよ。いい本だったから、本屋で同じの買った」

「金持ちか」

「京都のガイドブックだから欲しくなったんだよ。修学旅行に持っていくかもしれないし」

「ふ〜ん。浮かれてんな、お前」


 少し間ができた隙に千智が5年生の図書委員の月映冴子(つくばえさえこ)に借りていた本を渡して返却を依頼した。千智は機を見るのに敏い子だ。

「俺、修学旅行の実行委員だからな。それに委員長になったし」

「委員長? 藤城が? 華鈴(かりん)じゃないのか?」

江嶋(えじま)は副委員長」

「なんで華鈴を差し置いて藤城が委員長なんだよ。委員長といったら華鈴だろ?」

「しゃーねーだろ。みんな北川にビビってて、誰も委員長をやりたがらなかったんだから。それで俺が立候補したんだよ」

「そうか……華鈴もビビりだからな」

「ああ。そうしたら北川が江嶋を副委員長に指名してさ。あいつ、昔から俺のこと全然信用してねーんだよ。『お前には有能なサポートがいないと安心して任せきれん』だってさ」

「あいつ、相変わらずムカつくな」

 実果子の表情から緊張が(ほど)けた。北川に対しては皐月も実果子も思うことがあるので、こういう時は気が合う。

「それにさ、『藤城、お前その頭で修学旅行に行くのか? 旅行までに黒く染めておけ』なんて言うんだぜ。超ムカつく。野上は髪のこと何も言われないのか? 北川って担任だろ?」

「何も言ってこないよ。5年の時からずっとこんなだし。それにあいつ、私のこと見放してるから」

「そんなことねーだろ。あいつ、お前の担任じゃん。先生たちって、クラス決めの時に好きな子を選んで自分の生徒にしてるんだぜ。逆に目をかけられてるんじゃね?」

「嫌だよ、気持ち悪いな」

 クラス決めの際、問題児はクラスを分けられるという。だから、皐月は実果子や華鈴とクラスをバラバラにされたと思った。


「校長先生は俺の髪の色のこと格好いいって言ってくれるから、学校的には髪の色に関しては強制できないんじゃないかな」

「注意はするけど、反発されたらそれ以上は何も言わないってことか?」

「いや、注意すらできないと思う。先生も親とはトラブルになりたくないだろう」

 横で千智と冴子が黙って皐月たちを見ている。皐月はこの辺りで話を切りたいと思っていたが、実果子はまだ話し足りなさそうだ。

「でも藤城と華鈴のコンビなら北川的には一番安心じゃないの。あいつ、あんたらに私のこと押し付けてたくらいだし」

「何言ってんだ、お前。別に押し付けられてたとか、そんなことねーだろ」

「みんな影で言ってたじゃないか、問題児を一つの班に集めて隔離してるって」

「まあ、俺も問題児の一人だからな。真面目なのは江嶋だけだったし。でも俺たちって別に何も問題起こさなかったじゃん」

 皐月は実果子や華鈴たちと過ごした5年の2学期3学期は穏やかで楽しい毎日だと思っていた。それくらい平和だった。1学期は荒れていた実果子も、2学期からは何の問題も起こさなかった。


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