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藤城皐月物語 2  作者: 音彌
第3章 広がる内面世界
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161 副委員長は児童会長

 藤城皐月(ふじしろさつき)江嶋華鈴(えじまかりん)は稲荷小学校の校門を出ると、すぐに左の路地に入った。この道は車が通れないほど狭いので交通事故になりようがなく、多くの児童たちの通学路に指定されている。

 この通りには検番(けんばん)の裏玄関があり、昨日は筒井美耶(つついみや)と二人で検番の窓越しに芸妓(げいこ)(みちる)(かおる)と会った。

 皐月は学校の帰りにいつも二階の稽古場の窓を気にしている。今日は窓が閉められていたので芸妓の誰とも会えなかった。

 皐月の帰りの通学路の楽しみは大好きな芸妓の明日美(あすみ)に会うことだ。明日美が検番にいることがわかれば、窓越しに声をかけているだろう。髪を切って紫のカラーを入れて以来、皐月はまだ明日美と会っていない。

「さっきの田中のことなんだけど、江嶋にフォローお願いしてもいいかな。俺、人とうまく付き合うのってあまり得意じゃないんだ」

「そう? 全然そんな風には見えないんだけど。でも5年生の時は男子よりも女子とよく話してたね」

「俺、男よりも女の子と喋る方が好きだから。でも別に女好きってわけじゃないから、そこんとこは誤解すんなよ」

「誰が信じると思う、そんな話? 藤城君って女の子大好きじゃない」


 皐月は男のいない環境で生まれ育った。別れた父親に対してトラウマがあったので、女の中でこそ安らぎを得られるようになっていた。

 皐月のこの事情を知っているのは幼馴染の栗林真理(くりばやしまり)だけだ。だから皐月はクラスメートから女好きのレッテルを張られている。女子は皐月と絡むことをあまり気にしていないようだが、男子からは白い目で見られることがある。

「田中もさ、江嶋みたいにかわいい女の子の言うことなら何でも聞くんじゃないかな」

「ちょっと何言ってんの? かわいいとか変な持ち上げ方やめてよ」

「いやかわいいだろ、お前。いや、かわいいっていうよりも美人か」

「からかわないで!」

 本気で怒られた。華鈴は自分の顔にコンプレックスを持っているようなので、これからは軽薄な態度を取らないよう気をつけなければならない。

 華鈴は一重瞼で端正な顔立ちをしている。クールで近寄り難い雰囲気を出しているが、皐月はそこに魅かれている。形の良い一重瞼を美しいと思っているが、悪い友だちの花岡聡(はなおかさとし)からはあまり共感してもらえない。


 華鈴は5年生の時から児童会など、教師寄りの委員をよくやっていた。優等生ぶっているように見えるので男子からは敬遠されがちだが、皐月は真面目で優秀な女子は嫌いではない。

 同級生で幼馴染の月花博紀(げっかひろき)はこういうタイプが大好きなので、密かに華鈴に目を付けているに違いない。皐月はなぜか、博紀の好きなタイプの女子に好かれる傾向がある。

「話を戻すけどさ、副委員長として委員会をまとめる役をやってくれないかな。江嶋だったら人望があるし、先生からも信頼されてるじゃん。俺の言うことなんか聞きたくねーって奴でも、江嶋の言うことなら聞くと思うんだよね」

「そうかな? だって藤城君は私の言うことなんか聞いてくれないでしょ?」

「そんなことね〜よ。……なあ、頼むよ」

「じゃあ藤城君は委員長として修学旅行実行委員会をどうしたいの? 副委員長だからまとめ役をやるのは構わないけど、委員長だからって話によっては言うことを聞けないよ」

「俺はガンガン仕事を進めていくつもり。こういうのって比べられるものじゃないと思うけど、過去のどの年度よりもいい修学旅行にしたいって思ってる。これじゃダメかな?」

「わかった。じゃあ私はサポート役に徹するね。でもあまり自分勝手なことはしないで、少しはみんなの話も聞いてよね」

「ありがとう。もし俺が独断専行になったら注意してくれ」


 皐月と華鈴は駅前大通りのスクランブル交差点で信号待ちをしていた。二人並んで立っていると、華鈴が右下方から皐月のことを見上げていた。

「藤城君って背が高くなったね。5年生の時はこんな風に見上げたことがなかったのに」

「江嶋は背が低くなったな。こんなにちっちゃかったっけ?」

「私は普通だよ。今のクラスでも平均くらいの身長だと思う」

「そうか。お前って遠くから見ると大きく見えるんだよな。でもこうして並ぶと小さい」

 信号が青になったので二人は並んで歩き始めた。通学路は豊川稲荷の表参道ではなく、児童の登下校に安全な駅前大通りのアーケードの方だ。

 皐月は一つ目の角を左に入るよう華鈴を誘った。大通りの一本裏道に皐月の家がある。左に曲がり、すぐに右に曲がって狭い路地に入ると少し先に皐月の家の松の木が見える。

「俺ん()教えてやるよ」

「えっ? どうして?」

「特に意味はない。ちょっとランドセルを家に置いてきたかっただけだ。江嶋ん家まで送ってってやるよ」

「いいよ、別に。それに私、家知られたくないし」

「近くまで行ったら引き返すから、大丈夫だよ。そこまで家を見られたくないなら、探るような真似はしないからさ。ただ俺はもう少し江嶋と話したいだけなんだけど、ダメか?」

「ダメじゃないけど……」

「じゃあ決まりな」

 二人で下校をしているうちに、皐月は華鈴と別れ難くなっていた。


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