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藤城皐月物語 2  作者: 音彌
第3章 広がる内面世界
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153 京都旅行の行き先決めがマニア主導になると揉める

 岩原比呂志(いわはらひろし)藤城皐月(ふじしろさつき)の興味を引くような話をし始めた。

「嵐山まで足を伸ばしたら、嵯峨野(さがの)トロッコ列車に乗ってみたいね」

 嵯峨野トロッコ列車なら皐月も知っている。皐月も一度乗ってみたいと思っていたが、こうなると修学旅行からどんどんかけ離れていってしまう。

「あのさ、修学旅行だよ。時間だって限られてるんだよ。どんどん遠くに行っちゃってるじゃん。もうちょっと他のところも考えようよ。例えば清水寺とか金閣寺とか宇治の平等院とかさ。世界遺産じゃないけど伏見稲荷大社って外国人からもすっごく人気があるじゃん。そういうところに行ってみたいな、俺は。真理は清水寺や祇園に行きたいっていってたじゃん。二橋さんだって金閣寺に行きたいって言ってたよね。金閣寺って言ったら三島由紀夫の小説でもあるじゃん、ねっ吉口さん」

「なんだ皐月(こーげつ)、裏切るのか? 皐月がそんな普通のことを言い出すとは思わなかったぜ」

「藤城氏はこっち側の人間だと思っていたのに、やっぱり女性側につくんだ」

 皐月はメジャーな観光地を言っただけで神谷秀真(かみやしゅうま)や比呂志に非難されるとは思ってもみなかった。ただ、修学旅行くらい誰もが知る有名な観光スポットに行きたかっただけだ。

「岩原氏はさっき京都鉄道博物館に行きたいって言ったけど、個人的な趣味だからみんなを連れて行くわけにはいかないって言ってただろ? それなのになんだよ、今度は自分の乗り鉄の趣味全開じゃん」

「乗り鉄なら女子にも気に入ってもらえると思ったんだけどね。僕も一応、女子に配慮したつもりだよ」

「いや、やっぱ鉄板ルートの方が間違いないだろ?」

「藤城氏はつまらないことを言うね」

「お前、変わったな」

 比呂志と秀真から一世に攻撃を受けた皐月は何も答える気がなくなってしまった。女子からの援護を期待したが、誰も皐月に加勢してくれなかった。


「ふぅ〜」

 皐月はひどく疲れてしまい、椅子を後ろに傾けて伸びをした。すると、伸ばした腕が誰かの体に当たった。

「藤城〜」

 皐月の背後に立っていたのは図書委員の野上実果子(のがみみかこ)と児童会長の江嶋華鈴(えじまかりん)だった。皐月の腕は実果子の顔に当たったようだ。手の甲に濡れた感触があった。

「さっきうるさいって言っただろ、お前。もう少し静かにできないのか」

 実果子が低い声で、感情を抑えながら皐月に注意した。

「あっ悪ぃ。手、当たっちゃったね。痛かった? 声、大きかった?」

「もういいよ。昼休みが終わるから図書委員は教室に帰るけど、もう誰も本借りないよね?」

 実果子がみんなに向かって確認を取ると全員黙って頷いた。ヤンキー風の外見と荒い口調に栗林真理(くりばやしまり)と比呂志と秀真は引き気味だったが、二橋絵梨花(にはしえりか)は普段通り穏やかな顔で微笑んでいた。


「楽しそうだね」

 穏やかな顔で実果子が吉口千由紀(よしぐちちゆき)に話しかけた。

「うん、楽しい」

「そうか……よかった。私も千由紀の班で修学旅行に行けたら楽しいんだろうな」

「それって藤城君と一緒に行きたいってことじゃないの?」

 千由紀が実果子の耳元で、他の誰にも聞こえないくらいの小さな声で囁いた。

「まあ……それもある」

「いつか一緒に京都に旅行したいね」

「いいね。それまでにお金貯めておかないとな」

 千由紀と実果子が友達だということはここにいる誰も知らなかった。千由紀が教室に戻ろうと率先して立ち上がったので、皐月たちも後に続いて席を立った。

「なんで江嶋がここにいるの?」

「いちゃ悪い? さっきまでずっと実果子を手伝いながらお話をしてたんだから、別におかしくないでしょ」

「江嶋ってそんなに野上と仲良かったっけ? 五年生の時は同じ班だったけど、そこまでの仲じゃなかったよな。お前、いつも野上と喧嘩してたじゃん」

「久しぶりに話したからね。お互いつもる話があったのよ。それに喧嘩するほど仲がいいって言うじゃない」

「ふ〜ん、そうか」

「そう」


 みんな揃って図書室を出た。行きがかり上、皐月は江嶋華鈴(えじまかりん)と並んで歩くことになった。

「京都の訪問先、なかなか決まりそうにないな。江嶋も苦労するぞ」

「藤城君の班のメンバーって癖の強い人が多いよね。でも楽しそう。私も藤城君の班に入れてもらえたらいいのにな」

 華鈴が残念そうに天を仰いだ。

「歓迎したいところだけど、さすがに無理だよな。クラスが違うし」

「実果子もたぶん、私と同じ考えだと思うよ」

「まさか野上が吉口さんと仲が良かったとはな。俺、全然知らなかったよ」

「そういうことじゃないんだけどな……」

 6年1組に着いたので華鈴は教室に戻った。華鈴を見送った皐月は少し名残惜しさを感じていた。クラスの違う華鈴とは、もう言葉を交わす機会がないかもしれないと思ったからだ。

 実果子が3組に戻る時、千由紀に手を振っていた。それを見ていた皐月にも実果子が手を振ったので、皐月も手を振り返した。3組の女子たちが意外そうな目で実果子を見ていた。


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