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藤城皐月物語 2  作者: 音彌
第3章 広がる内面世界
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150 オカルトマニア

 藤城皐月(ふじしろさつき)と3班の女子三人が図書室のテーブルで『るるぶ』を見ていると、残りの3班の男子二人も図書室に集まって来た。これで皐月たちの班のメンバーが全員揃った。

 岩原比呂志(いわはらひろし)神谷秀真(かみやしゅうま)は元々来る予定ではなかったし、吉口千由紀(よしぐちちゆき)も来るという話は聞いていなかった。だが自然と3班の六人が全員図書室に集まった。

「どう?」

「どこに行くか決まった?」

 皐月に声をかけた秀真と比呂志が皐月の隣に座った。賑やかになったので、また図書委員の野上実果子(のがみみかこ)に怒られやしないかと冷や冷やした。実果子は皐月に遠慮がない。

秀真(ほつま)の言う通り、行ってみたいところがあり過ぎる。ああ〜、絞り切れねぇ……。やっぱメジャーなところは押さえておきたいなって思ったんだけど、それでも多過ぎるわ」

「僕が行きたいところはどうせガイドブックには載っていないマイナーなところだからな……」

「秀真、どこ行きたいの?」

木嶋坐天照御魂このしまにますあまてるみたま神社。皐月(こーげつ)、知ってる?」

 皐月はわざと自分の知らないことを言ってくる秀真の癖をよく知っている。

「何その長い名前の神社? 聞いたことないなぁ」

「ここ、延喜式内社(えんぎしきないしゃ)なんだ」

「延喜式内社って何?」

 秀真にはいつも知らないことを聞かされて悔しいが、勉強になる。だから皐月はせいぜい拝聴させてもらうことにしている。

「簡単に言うと古くて重要な神社のこと。平安時代の延喜式神名帳えんぎしきじんみょうちょうっていう、当時の全国の神社一覧があるんだ。豊川市でそれに記載された神社だと、砥鹿(とが)神社と菟足(うたり)神社と御津(みと)神社があるよ。まあ豊川市といっても、旧宝飯(ほい)郡なんだけどね」

「砥鹿神社って一宮(いちのみや)じゃん。だったら秀真の言った長い名前の神社も立派な神社なの?」

「立派かどうかはわからないけど、スッゲー古いよ。木嶋(このしま)神社は推古(すいこ)天皇の時代にできたらしいから、平安京ができる前だよね。ここは三柱鳥居(みはしらとりい)が有名で、鳥居を三つ組み合わせた全国的にも珍しい鳥居なんだ。どうしてこういう形になっているのかは理由がはっきり分かっていないみたい」

 秀真は木嶋坐天照御魂神社を皐月でも覚えやすいように木嶋神社と略して話してくれた。


「鳥居が三つ組み合わさってるってどういうこと?」

「鳥居同士の柱を共有させて、正三角形になるように組んであるってこと。鳥居って普通はくぐるものでしょ。でも三柱鳥居はくぐるようにはできていなくて、三角形の祭壇のようになっているんだ」

秀真(ほつま)、前に鳥居って神域と俗界を隔てる結界で、神域への入口だって言ってなかったっけ? じゃあ三柱鳥居って、ピンポイントで強力な何かを封印する(くさび)みたいだな」

 皐月も秀真に負けじと知識に基づく考察を披露した。幼馴染の栗林真理や学級委員の二橋絵梨花にもこの説を聞いてもらいたかったが、二人は『るるぶ』に目を落としたままだ。

「さすがは皐月(こーげつ)、いいところに気が付いたね。確かにこの三柱鳥居は人がくぐるようにはできていないんだ。鳥居の中心には組石(くみいし)が積まれていて、そこに祓串(はらいくし) が立てられている形になっている。これって絶対に何かあるよね?」

「すげ〜っ、木嶋神社ってすげ〜なっ!」

 皐月は神社に興味を持ち始めてから、鳥居の存在意義について関心を持ち続けている。三柱鳥居は皐月の好奇心に火をつけた。


「まだ木嶋神社には興味深いことがあってね、あとは……」

「ちょっと待って! 修学旅行なんだからそんなマニアックなところはやめてよ。私はもっとメジャーな観光地に行きたいの。そういうところは神谷君の個人的な旅行で行ってよ」

 班長の吉口千由紀が慌てて秀真の言葉を(さえぎ)った。

「なんで? ただ行きたいところを言っただけじゃん。それにお薦めだよ、木嶋神社」

「修学旅行だよ? ミステリーツアーじゃないんだから、みんなが知ってるところに行こうよ」

「だったらみんなに知識を教えるよ。知れば絶対に行ってみたくなるから」

「そういうことじゃない。修学旅行って誰もが知っているところに行くものでしょ? そういう体験って、将来出会う人と共通の話題になるんじゃない? 修学旅行ってそういうものでしょ?」

「それは吉口さんがそう思ってるだけだよね? 僕はただ、みんなに知られざる興味深いところを紹介してるだけなんだけど」

「どうしていきなり知らないところに行かなければならないのって言いたいの、私は」

 千由紀が目を潤ませ、微かに震えながら感情を抑えていた。皐月も秀真と一緒になってはしゃいでいたので、千由紀を怒らせてしまった責任を感じないわけにはいかない。

 皐月が人づてに聞いた話では、千由紀は五年生の時にいじめられたことがあり、我慢の限界を超えて暴力的に反撃したという。千由紀はいつも静かに読書をしているが、本来は激情型の子なのかもしれない。

「じゃあ、とりあえず候補の一つってことでいいだろ、秀真」

 秀真は不承不承ながら木嶋神社の話をやめた。


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