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藤城皐月物語 2  作者: 音彌
第3章 広がる内面世界
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108 小テスト

 6年4組では前回の社会の授業で幕末の単元が終わったので、今日はそのテストが行われた。担任の前島先生はテストの制限時間を25分に設定している。藤城皐月(ふじしろさつき)の五年生の担任だった北川先生は15分で問題を解かせていた。

 誰よりも早く問題を解き終えていた皐月はいつも20分以上時間を余らせていた。テストが終わるまでの間、何もすることがなくなってしまうので、退屈を通り越して苦痛だった。

 だが六年の担任の前島先生は時間内に解き終われば答案を提出をさせてくれる。しかもその場で採点をしてすぐに答案を返してくれ、そのうえ余った時間は自由に読書をしていていいという。

 皐月は順位の出ないテストなんてつまらないと思っているので、このシステムをとても気に入っている。カラーテストなんて100点満点が取れて当たり前だと思っているから、満点を取る奴がたくさんいると、自分のクラスの序列がわからないと不満だった。

 だが前島先生のやり方なら、解く早さという評価軸が加わる。皐月は勉強の実力を正確性と早さだと思っているので、自分のクラス内の序列がわかることが嬉しい。早く解き終わると、クラスメイトからの注目が集まるのも承認欲求を満たしてくれる。皐月はテストの時間を毎回楽しみにしている。

 だが、いいことばかりではなかった。皐月が初めて前島式のテストを受けた時は、クラスで一位を取ってやろうと張り切っていたが、中学受験組の栗林真理(くりばやしまり)二橋絵梨花(にはしえりか)にまるで歯が立たず、天狗の鼻を折られた。


 今日は暗記テストだからガンガン解いて、真理を出し抜いてやろうと思っていた。1学期までの経験だと、暗記中心のテストなら皐月でもある程度は勝負になっていた。しかし今回はどういうわけか真理がバカみたいに早く終わらせたので、またしても勝てなかった。

 それでも真理が先生に採点をしてもらっている時に、皐月はテストを終わらせることができた。時間の差が少ないので、真理に大差をつけられたわけではない。

 次こそは負けないぞと闘志を燃やして席を立つと、真理が舌を出して挑発してきた。憎たらしいけど、かわいい顔をしていた。皐月がニヤニヤしながら先生に答案を渡すと、すぐ後に月花博紀(げっかひろき)がやって来た。

「栗林さんってあんなキャラだったっけ?」

 博紀が小声で皐月の耳元で囁いた。博紀は真理のバカな顔を見ていたようだ。

「まあ、あれがあいつの本来の姿なんだよな。学校ではいつもスカしてるけど」

「俺、あんな栗林さん初めて見た」

「ご機嫌なんだろ。何かいいことでもあったんじゃね」

 皐月と真理は口づけを交わす仲になっていた。クラス内では二人だけの秘密なので、真理はきっとはしゃいでいるのだろう。


 皐月のテストは満点だった。採点の終わった答案用紙をスキャンして、点数を入力して答案用紙を手渡されると、皐月と博紀は先生から私語を慎むよう注意された。

「お前のせいで怒られたじゃないか」

「話しかけてきたのは博紀だろ」

「声がでかいんだよ、皐月は」

 皐月が席に戻ろうとした時、博紀がまた先生に叱られていた。ざまぁと思いながら席に着こうとしたら、絵梨花が解き終わって立ちあがった。

「二橋さん、今日は遅いじゃん」

「藤城さんたちが早過ぎるんだよ」

 絵梨花は皐月みたいにムキになって早く終わらせようとはしないが、それでもいつも皐月よりも解き終わるのが早い。

 真理は皐月みたいに早解きにこだわっているので、絵梨花はいつも2番目に早い。今日みたいな暗記モノだと、皐月でも絵梨花に勝てることがある。

 絵梨花に勝てた皐月は嬉しくて表情が緩んでいたが、絵梨花は何とも思っていないのか、普段通りの落ち着いた顔をしていた。


 皐月は席に戻り、机の中から読書用の本を取りだした。それは図書館で借りた日本の世界遺産のガイド本で、熊野古道の大きな写真が見られるものだ。その本には皐月の興味を引く知識は載っていなかったが、プロの撮影した写真は美しかった。

 2学期の初日に筒井美耶(つついみや)から実家の十津川(とつかわ)村の話を聞かされ、熊野に興味を持つようになった。熊野については以前、ネットで少し調べたことがあった。あの辺りの神社の知識に興味があってこの本を手に取ったが、ページ数の少ないガイドブックではありきたりな情報しか掲載されていない。皐月はすぐに読書に飽きてしまった。

(熊野古道じゃなくて修験道(しゅげんどう)の本を借りればよかったかな……でもそんな本、小学校の図書館に置いてあるわけないか)

 皐月と美耶と神谷秀真(かみやしゅうま)の三人で話した、修験道の女人禁制(にょにんきんせい)の話は面白かった。その後、女人禁制のことは知識はネットで調べて少しは知るところとなったが、美耶の十津川での体験談をもっと聞きたかった。

 その場に一緒にいた松井晴香(まついはるか)花岡聡(はなおかさとし)(いさか)いがあったことで、皐月は美耶と話すきっかけが作れなくなり、夏休みの話の続きをずっと聞けずにいた。

 その後、秀真に教えてもらった十津川村の玉置(たまき)神社のことも興味深かった。美耶が玉置神社のことを知っているのか、ぜひ聞いてみたいと思っている。


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