表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
藤城皐月物語 2  作者: 音彌
第3章 広がる内面世界
34/142

138 宗教の人は嫌い

 豊川稲荷の参道の坂を登り切り、藤城皐月(ふじしろさつき)常香炉(じょうこうろ)越しに大本殿を見た。

 大本殿は総欅(そうけやき)造りの妻入二重屋根三方向拝つまいりにじゅうやねさんぽうこうはいで、間口が約19m、高さが約30mという立派なものだ。

 寺院なのに狛犬ならぬ狛狐(こまぎつね)が左右に配されているところに神仏習合(しんぶつしゅうごう)の名残がある。本殿正面に吊るされている大提灯は高さ3.8mもあり、大迫力だ。


「筒井は初詣、どこに行ったの?」

玉置(たまき)神社。十津川(とつかわ)村にある神社なんだけど、知らないよね?」

「知ってる知ってる! 秀真(ほつま)に教えてもらったんだ。世界遺産の『紀伊山地の霊場と参詣道』にある神社だよね。なんかすごい神社なんだってね」

「私はそういうのよくわからないんだけど、たぶんすごいんだと思う。大峯奥駈道(おおみねおくがけみち)のなかでも聖地って言われているみたいだし、日本中から参拝者が来るよ」

「なんて神様が祀られてるんだったっけ? 秀真に聞いたけど忘れちゃった」

国常立尊(くにとこたちのみこと)だよ。地球がまだ天と地や陰と陽の区別がない世界だった頃に最初に生まれたのが国常立尊なんだって。地球の神様ってこと」

「あっ、思い出した。国常立って艮の金神(うしとらのこんじん)のことだ」

「艮の金神って何? 私、聞いたことがないんだけど……」

 皐月はオカルトマニアの友だちの神谷秀真(かみやしゅうま)に教えてもらって覚えていることを美耶に話した。


 国常立尊が艮の金神と呼ばれるのは大本教(おおもときょう)という神道系の宗教団体の神話が由来で、オカルト好きにはよく知られている。

 もともと金神とは方角神のことで、艮の金神は丑寅(うしとら)の方角、すなわち東北の神ということになる。

 大本神話によると艮の金神は地球の丑寅にあたる日本列島の神ということらしい。日本がなぜ地球の東北になるかは皐月にはわからない。

 国常立尊は地球を治めていたが、どんな小さな悪も許さないくらい厳しい神だった。その厳格な統治に耐えられなくなった者たちによるクーデターの結果、地球の艮にあたる日本に封印されたという。

 陰陽道では東北の方角を鬼門といい、鬼が出入りする方角として忌み嫌われている。大本神話では国常立尊は鬼であるということになる。

 大本教は艮の金神の封印を解いて世に出し、世界を立て直そうとした。だがこの霊的クーデターは失敗し、日本政府から弾圧された。

 だが本当の立て替え立て直しは次が本番だという。それが今の時代なのかこれからの時代なのかはわからないが、オカルト好きの人たちは今の時代に艮の金神が復活し、今の悪い世界を終わらせることを期待している。


 皐月はこんな話を美耶にした。話が長くなり、また陽が傾いた。豊川稲荷の大本殿の前で艮の金神の話を話すことになるとは思わなかった。

「藤城君はその話、信じてるの?」

「そうだな……信じてるかって言われると、信じていないのかも。でも面白い話だなって思うよ。国常立が艮の金神で鬼だってことと、鬼が忌み嫌われている理由とか……まだ俺にはよくわかんないけど、興味深いな」

「ふ〜ん。興味を持つのはいいけど、宗教にハマらないでね。私、宗教の人って嫌いだから」

「ハマってねえよ。ただ話がアニメとか漫画の設定みたいで面白いなって思ってるだけだし……」

 美耶の反応を見て、皐月は知識をひけらかすことを控えることにした。美耶がオカルト的な話を嫌っているのがよくわかった。実際のところ、今の皐月は神事(かみごと)に関しては信じ切っているわけではない。

 美耶の「宗教の人は嫌い」という言葉は重かった。皐月は美耶の言ったことを宗教に深入りするなというアドバイスとして受け止めた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ