表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
藤城皐月物語 2  作者: 音彌
第3章 広がる内面世界
26/142

130 同級生を異性として意識した瞬間

 修学旅行実行委員になった藤城皐月(ふじしろさつき)は不安を打ち消すため、担任の前島先生に聞けることは今ここで聞いておこうと思った。

「プリントの『一日目の京都での班別の行動の訪問先を決める』って書いてあるところに*印が書いてあるんですけど、これってどういう意味ですか?」

「これはね、修学旅行実行委員では荷が重すぎるから、先生が主導で決めるっていう意味ね。でもちょっとは手伝ってもらうことになるかもね」

 皐月は速読で*印の付いている行だけ拾い読みをした。バスの席決めや旅館の部屋割を決めると書いてある文末に*印が付いていた。面倒な項目に印がついているのは助かる。


「さっき言った班長との打ち合わせって、どういったことをするんですか?」

「それはね、京都で班別の行動の時に学校からスマホが支給されるの。緊急連絡用に班長にスマホを持ってもらうと、あなたたちの位置情報が先生たちにわかるようになっているわ」

「それって監視されているってことですか?」

「まあ制限付きの自由ってことかしら。何かトラブルがあった時に駆け付けることができるようにしておかないと、小学生のあなたたちに班別行動なんてさせられないでしょ? 昔は班別行動なんてできなくて、どこに行くのも学校全体で決められたところに行ってたのよ。藤城さんはどっちがいい?」

「首輪が付いてても、好きなところに行ける方がマシかな」

「首輪はいいわね。あなたの言う通りだわ」

 言った後、口が過ぎたかなと思ったが、前島先生は楽しそうに笑っていた。

「あなたたちが大きくなって、自分の行動に責任が持てるようになったら好きなように旅行をすればいいわ」


 前島先生は授業をしている時と違い、楽しそうだ。

「それで、班長との打ち合わせっていうのは、主に班長たちにスマホの使い方を伝えてもらいたいことなの。スマホは旅行の日にレンタルするから実物がなくて、委員会で配られる操作マニュアルだけで説明しなければならないから、ちょっと難しいかもしれないわ」

「わかりました。たぶん、みんなもスマホを使ってると思うから、大丈夫だと思います。ところでスマホのアプリって使っちゃだめなんですか?」

「そんなことないわ。卒業アルバムに載せる写真を、支給したスマホで撮ってもらう予定だし、地図アプリを上手に使えば道に迷わなくてすむわ。ただね、使えるアプリに制限はあるの。詳細は実行委員会で北川先生が教えてくださると思うから、よく聞いておいてね」

 北川の名前を聞いて皐月は嫌な気持ちになった。前島先生には気軽に話しかけられるが、北川先生とは口もききたくない。


「先生、行動班の班別行動って、違う班の子たちと行き先がバラバラになるんですよね。どうやって決めるんですか?」

 筒井美耶(つついみや)が不安げな顔で前島先生に聞いた。

「あら、よく知ってるわね。まだみんなに話していないのに」

「お兄さんやお姉さんがいる子が言ってたんです。私たちの間ではその話をよくしています」

 京都での自由行動は修学旅行の最大の楽しみだ。2学期に入ってからはクラス中がその話題で盛り上がっている。

「京都での班行動に関しては、私から学級活動の時間で時間をかけて決める予定よ。班行動の訪問先を決めるのって修学旅行で一番大変なことだからね。授業よりも大変だから、あなたたちに負担をかけるようなことはしないわ。社会や情報の授業で行き先を決める時間を作るから、その時はあなたたちも班の子たちと一緒に行き先を決めてね。実行委員も修学旅行をする側の児童だから、楽しんでほしいと思ってるわ」

「やった! 授業がつぶれる!」

「あれ? 藤城さんって授業好きだと思ってたんだけどな〜」

「いや……今のは筒井の心の声であって、俺は先生の授業、大好きだよ」

「ちょっとひどいっ! 藤城君、自分ばっかいい子になろうとして!」

 鋭い平手打ちが皐月の肩にヒットした。パシッといい音がした。

「痛えっ! もうちょっと手加減しろよなぁ」

「……ごめんね」

「お前、痛過ぎ」

「大丈夫?」

 美耶が皐月を叩いたところをさすっている。皐月は苦笑いをしながら手を払おうとするが、美耶は執拗にさすり続ける。

「あなたたち仲がいいわね。もう少し話を続けてもいいかしら?」

「あっ、すみません」「すみません」

 皐月は先生に冷やかされても悪い気がしなかった。美耶を見ると顔を赤くしていた。

 肩に触れた美耶の手は温かかった。掌から特殊な力が出ているのかと思うほど、痛みがすぐに消えた。痛みが消えるだけでなく、美耶の想いが掌から体の中に直接注がれているようにも感じた。

 この時から皐月は美耶のことを異性として意識するようになった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ