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藤城皐月物語 2  作者: 音彌
第3章 広がる内面世界
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129 大人の女性の理想像

 藤城皐月(ふじしろさつき)筒井美耶(つついみや)は教室にランドセルを残したまま職員室へ向かった。美耶と並んで歩いていると男子からからかわれそうなので、皐月は歩く足を速めた。

 だが、必死で早歩きをしても美耶は余裕で並んでくる。美耶は特にスポーツをやっているわけではないのに身体能力が異様に高く、スポーツ全般が得意で、クラスの女子に人気がある。皐月は無駄な抵抗はやめて、階段は普通にゆっくりと階段を下りることにした。


 職員室に入り、担任の前島先生の席を見ると隣の席が空いていた。皐月は髪の色で批判的な言葉を言われた北川先生が不在なのを確認し、ホッとした。

「二人とも悪いわね、放課後に時間を割いてもらっちゃって」

 皐月と美耶は前島先生に連れられて、教師と児童が面談をする多目的ラウンジへと移動した。

 この日の前島先生は教室では常に敬語を使うのに気さくな話し方だった。皐月と美耶は驚いて、互いに顔を見合わせた。

 すれっからしな芸妓を見慣れた皐月にとって、立ち振る舞いの気高い前島先生は大人の女性のもう一つの理想像だ。だが、こういう柔らかい感じの先生も魅力的だ。

 前島先生の年の頃は三十代だろうか。皐月の好きな芸妓(げいこ)明日美(あすみ)よりだいぶ年上に見える。

 先生のまとう香りがシックで上品だということに、皐月は職員室でゼロ距離になるまで気づかなかった。芸妓衆のような扇情的な香りではなく、入屋千智のような清潔な香りでもない。

 栗林真理(くりばやしまり)と抱き合っていた時の甘い匂いとも違う。皐月は真理を思い出して顔が火照り、曖昧な目線を装いながら前島先生の唇を見つめていた。


「今から修学旅行実行委員にやってもらいたいことの説明をするね」

 A4用紙を1枚手渡され、皐月は我に返った。プリントには片面1ページに実行委員のやるべきことが箇条書きでまとめられていた。思ったよりもやることが少ないのかな、というのが皐月の第一印象だった。

「今渡したプリントに大まかなことは全部書いておいたので、今日は特に重要なことだけに絞って話すね」

 慌ててプリントを読もうとした皐月と美耶だが、先生から後でゆっくり読めばいいからと止められた。

「じゃあいいかな。まず実行委員にしてもらいたいのは各班の班長を決めること。明日の朝の会であなたたちからクラスの子たちに呼びかけてもらいたいの。で、帰りの会までに行動班の班長を決めてちょうだい。それから、あなたたちは実行委員としての仕事があるから、行動班の班長にはならないでね」

「学級委員に班長をやってもらってもいいんですか?」

「あなたたちの好きにしていいわ。修学旅行は学級委員じゃなく、あなたたち実行委員に仕切ってもらうから、特に気にしなくてもいいわ」

「はい」「……はい」

 皐月は即答したが、美耶は少し躊躇した。修学旅行実行委員は期間限定の学級委員のようなものか、と皐月は理解した。責任の重さを感じているのか、美耶はどことなく身構えているように見えた。


「班長が決まったら、委員会で決まったことは班長とだけで打ち合わせをすればいいわ。ある意味、情報の伝達を班長に分担させるってことね。班長とうまく連携が取れたら、あなたたちの負担が減って楽になるわよ」

 先生は気を使って言ってくれたのだろうが、こんなことを言われると皐月には実行委員が学級委員よりも面倒に思えてきた。

 人にものを頼むくらいなら自分でやってしまいたいのが皐月の気性だ。貧乏くじを引いたかな、と皐月は月花博紀(げっかひろき)の代役を引き受けたことを軽く後悔した。

「修学旅行まではこうして時々、放課後に先生と打ち合わせをしましょう。朝の会で話し合ってもらいたいことは前の日に伝えます。あなたたちの手に負えないようなことにはならないようにするから安心して。不安やトラブルがあれば、何でも先生に話してね」

 すでに不安になっている皐月は先生からもらったプリントにさっと目を通した。何をするべきかを知らないから不安になる。


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