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藤城皐月物語 2  作者: 音彌
第3章 広がる内面世界
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127 ハメられた?

 学級委員の月花博紀(げっかひろき)は深刻な顔をしていた。松井晴香(まついはるか)が修学旅行実行委員に立候補したせいで、好きな二橋絵梨花(にはしえりか)と一緒に実行委員ができなくなったからだ。

 博紀が真剣に人に頼るところを、藤城皐月(ふじしろさつき)は今まで見たことがなかった。他の奴に頼ればいいのにと思ったが、まさか自分を頼ってくるとは思わなかった。

 修学旅行実行委員の仕事内容を考えると、簡単に人に頼れるものではない。博紀の深刻な様子から、単純に面倒を自分に押し付けているようには見えなかった。もしかしたら、自分のことを口先だけではなく、本当に信頼しているのかもしれない。

「しょうがねえな……貸しだからな」

「ありがとう。正直助かる」

 修学旅行を楽しみにしていた皐月は実行委員に興味がないわけではなかった。ただ担当の先生が皐月の髪の色に批判的だった北川だったので関わりたくなかっただけだ。

「藤城君が実行委員を引き受けてくれるそうなので、お願いしようと思います」

 教室にざわめきが残る中、博紀が晴れやかな顔で言い放った。

「えーっ! 藤城がやるの?」

 松井晴香(まついはるか)から悲鳴が上がった。ここまで露骨に嫌がられると、晴香とはよくしゃべる皐月でもさすがに頭にくる。立ち上がって晴香に文句を言ってやろうとしたら、博紀に制止された。

「松井さん。藤城は俺より頭がいいし、信頼できるからお願いしたんだ。そんな言い方しないでくれ」

 いつも穏やかな博紀が珍しく厳しい口調になった。気の強い晴香が泣きそうな顔をしている。

「じゃあ美耶、私と代わってよ。いいでしょ」

「えっ、私?」


 急に実行委員を振られた筒井美耶(つついみや)はびっくりしていた。席が離れているからか、晴香の声が大きく、聞きようによっては怒気が含まれているようにも聞こえた。

 緩んだ空気が一瞬で張り詰め、しばらくの間、沈黙が続いた。いつも仲の良い晴香と美耶だが、この時の美耶は少し怯えているようにも見えた。そんな美耶を見ていると、皐月は助けずにはいられなくなった。

「筒井、俺と一緒に実行委員やろうぜ。なっ!」

 皐月は立ち上がって美耶を見た。

「私なんかにできるかな……」

「大丈夫。筒井と一緒ならうまくやれるよ。絶対」

 1学期の時のように席が隣同士だったらもっと安心させてやれるのに、と皐月は離れた席がもどかしかった。

「僕たち学級委員もできる限りサポートするから、心配しないで」

 晴香に対する口調と違い、博紀は美耶に優しく語りかけた。

「じゃあ……やります」

 博紀の一言で美耶は実行委員を引き受けることを了承した。美耶が皐月のことを好きなことをクラスの全員が知っている。もちろん博紀も知っている。

 博紀のファンクラブの女子のやっかみがない分、晴香が実行委員になった時よりも盛り上がり、クラス中が大騒ぎになった。皐月が博紀をからかったように、クラス中の男子から冷やかされた。

「じゃあ、よろしくな」

 博紀の言い方が軽く、爽やかだったことが皐月の癇に障った。

「お前、もしかしてこうなることわかってた?」

「さあ?」


 博紀に信頼されたと思っていい気になっていた皐月だが、こうも博紀に都合よく話が運ぶとハメられたような気がしてならなかった。

 博紀は皐月と同じ町内に住んでいて、低学年の頃はいつも一緒に遊んでいた。皐月は博紀の性格をよく知っている。博紀なら自分に面倒を押しつけるようなことでもやりかねないと思った。

 博紀は学校では常に穏やかで誰にも優しく接し、人心掌握にも長けている。見た目は学校一のイケメンなので、女子の間では人気が高く、そのうえ男子からも慕われている。

 でも皐月は博紀の学校での振る舞いが外面(そとづら)なのを知っている。そんな博紀は六年生になってからずっと皐月に対して嫉妬を含む、複雑な感情を抱いている。

 まあいいか、と皐月は思い直した。修学旅行の実行委員をやれば、楽しみにしていた修学旅行に深く関わることができる。

 それに晴香と組むよりも美耶と組む方がずっと楽しい。席が離れ、美耶と話す機会が少なくなって、皐月は初めて美耶の良さが少しずつわかってきた。実行委員は面倒だが、修学旅行に行くまでの楽しみが増えたと前向きに考えることにした。


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