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藤城皐月物語 2  作者: 音彌
第3章 広がる内面世界
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126 修学旅行実行委員の選出

 修学旅行の行動班が決まり、先生から修学旅行初日の京都観光の概要の説明が終わると、いつものように学級委員が教壇に立って学級会が進められた。

 行動班は担任の前島先生が決めたが、修学旅行実行委員は学級会で決める。実行委員が決まれば、今後の修学旅行に関することは、実行委員が話し合いの中心になって決めることになる。

 修学旅行実行委員の選定の前に、学級委員の二橋絵梨花(にはしえりか)が前島先生から渡された資料を見ながら、実行委員の仕事内容について説明した。

 修学旅行実行委員会は放課後に行われる。

 実行委員はそこで決まったことをクラスの児童に伝達すること。修学旅行のしおりを作成すること。クラスごとのルールを決めたり、帰りのバスの中でのレクリエーションを決めたりすること。その他さまざまな雑用があり、実行委員は相当大変な役割を担わされることになる。


「実行委員に立候補したい人はいませんか?」

 もう一人の学級委員の月花博紀(げっかひろき)がクラスメイトに呼びかけたが、応えるものは誰もいなかった。無理もない話で、実行委員の仕事内容を聞けば、やってみたいと思うものはいないだろう。

「委員会って週に何回くらいあるの?」

 藤城皐月(ふじしろさつき)は中央の前から2列目に座っている。博紀に近い位置なので、皐月は気軽に質問してみた。詳細を把握していない博紀は皐月の代わりに前島先生に尋ねてくれた。

「恐らく週1〜2回くらいじゃないかと思います。例年はそのくらいだったと思いますが、修学旅行の担当が3組の北川先生なので、はっきりしたことは言えません」

 北川と聞いてクラス中からため息が聞こえた。4組の児童には隣のクラスの北川先生は人気がない。常に敬語で接する前島先生に慣れてしまうと、名前を呼び捨てにして親しげに接してくる北川先生をうざったく感じる児童が多い。

 3組の児童の間でも北川先生があまり好かれていないことが知られている。そのせいで余計に修学旅行実行委員に立候補する者が出にくくなってしまった。


「誰も実行委員になりたがらないのなら、僕たち学級委員が実行委員を兼任しようと思います。いいかな? 二橋さん」

 博紀の提案に絵梨花が困惑している。

「そうですね……じゃあ、私たちでやりましょうか」

 最前列に座る栗林真理(くりばやしまり)は絵梨花と同じ中学受験組なので、絵梨花の困惑の意味がすぐにわかった。受験を控えたこの時期に、学校行事で一カ月も忙殺されるのは、できれば避けたいところだ。

「ちょっと大丈夫なの? 絵梨花ちゃん、塾あるんでしょ?」

 真理が周囲に聞こえにくいような小声で絵梨花に話しかけた。

「塾は遅刻しちゃうかもね。でも仕方がないかな……」

 皐月には博紀の気持ちがなんとなく想像できた。以前、弟の直紀(なおき)に博紀はレベルの高い女子が好きだと聞いていたので、博紀が絵梨花に気があることは察しがついていた。

 誰もやりたがらない実行委員を自ら引き受けるリーダーシップは見上げたものだと思うが、博紀に下心があることは想像に難くない。博紀が絵梨花の受験事情を知らないことを考慮しても、独断で絵梨花を巻き込むことが皐月は気に入らない。


「私、実行委員やります!」

 手を上げたのは班決めの件で意見を言った松井晴香(まついはるか)だった。

 博紀のファンクラブ会長の晴香だから、博紀と一緒に実行委員をやりたいのだろう。博紀と同じ班になれて舞い上がっているのかもしれない。絵梨花のことで博紀に文句を言う前に晴香が立候補してくれたので、皐月はホッとした。

「松井さん、立候補ありがとうございます。では修学旅行実行委員をお任せします。よろしくお願いします」

 絵梨花から晴香への引き継ぎが終わると、硬くなった空気が一気に解けた。晴香が博紀のことを好きなのは6年4組の全員が知っているので、クラス中が浮き立った。

 皐月は博紀をざまぁと思ったので、誰よりも大げさにはしゃいでやった。博紀の表情が少し曇ったのが気持ち良かった。

 博紀が教壇を下りて皐月のそばにやって来た。

「なあ、お前が俺の代わりに実行委員やってくれないか?」

「はぁ?」

「サッカーの試合が近いから、クラブをさぼりたくないんだ」

「お前、さっき自分でやるって言ったじゃないか」

「あの時は誰もやろうとしなかったから、仕方がなかったんだ。お前なら安心して任せられる。頼むよ」

 何を勝手なことを言ってるんだ、と皐月は博紀の提案に呆れた。


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