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藤城皐月物語 2  作者: 音彌
第3章 広がる内面世界
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121 三柱の女神

 藤城皐月(ふじしろさつき)は最近、学校に行くのが楽しくて仕方がない。それは2学期最初の席替えで決まった班が今までで最高の組み合わせになったからだ。6年4組では一つの班は男女三人ずつの六人で構成されている。この班の他の五人は、皐月にとってこれ以上ないメンバーだ。

 男子は皐月と趣味の合うオカルト好きの神谷秀真(かみやしゅうま)と鉄道好きの岩原比呂志(いわはらひろし)のインドア系の二人だ。二人とも話す内容がマニアックで知識が深いので、皐月は教わることが多い。

 秀真と比呂志にしてみれば、話についてきてくれるだけでなく、自慢の蘊蓄(うんちく)に興味を持ってもらえるので、自分と話すことが楽しいようだ。皐月も興味のある特殊な分野のディープ話が聞けるので、いつも二人から薫陶を受けているような充実感を味わえる。


 女子は幼馴染の栗林真理(くりばやしまり)と学級委員の二橋絵梨花(にはしえりか)、文学少女の吉口千由紀(よしぐちちゆき)の三人だ。特にこの班の女子は誰も月花博紀(げっかひろき)のファンクラブに入っていないというのが皐月には気分が良い。

 隣の席の絵梨花は真理と並ぶ圧倒的な学力の持ち主で、クラス代表のピアノ演奏係も務めている。そんな高スペックのうえ、西洋人形のようなルックスと深窓の令嬢を思わせる身だしなみのせいで、誰も気安く話しかけられない雰囲気を纏っている。

 絵梨花は六年生になった時に稲荷小学校へ転校してきたので、このクラスに仲の良い友だちがいなかった。皐月も何となく近寄り難いと思っていたが、隣の席になって話してみると、絵梨花が普通の女の子だということがわかった。

 千由紀は人を寄せ付けないオーラを出していて、男子のみならず女子からも疎まれている。千由紀自身も誰とも話したくないと思っているようで、本を読むことでまわりとの壁を作っているように見える。

 5年生の時に千由紀がクラスでハブられていたことを、皐月は千由紀と同じクラスだった男子から聞いていた。しかし席が近くなって話をしてみると、千由紀はいたって普通の女の子だった。

 真理は学校での空き時間を全て受験勉強に費やしている。真理がクラスの誰かと雑談をしているのを、皐月は見たことがない。真理は抜きん出た学力と愛想のなさで、同級生からは取り付く島もないと思われているようだ。

 真理の愛想の悪さが人間嫌いな性格からきていることは、似た環境で育った皐月にもある資質なので、皐月は真理の振舞いの意味をよくわかっている。真理に気安く話しかけられるのはクラスで皐月だけだった。

 新しい班になると、真理と絵梨花が仲良くなった。同じ中学受験組という境遇が二人を引き合わせたようだ。

 真理と千由紀は川端康成の『雪国』を通して仲良くなれそうだ。皐月は芥川龍之介の『羅生門(らしょうもん)』を通じて絵梨花ともっと仲良くなれるかもしれないと期待している。千由紀とは新しく興味を持ち始めた文学で、秀真や比呂志のように深い話ができる友達になりたいと思っている。


 校門を抜けて6年4組の教室に入るまでの間に、皐月のテンションは爆上がりしていた。その理由が今の皐月にはたくさんある。一番の理由は真理と会えることだが、同じくらいの楽しみは昨夜読んだ『羅生門』の話を絵梨花や千由紀とできることだ。

 皐月には彼女らがまだどういう子なのかがよくわからない。だが、学校に来れば、絵梨花や千由紀と仲良くなれるチャンスはいくらでもある。恋愛関係になった真理がすぐそばにいるけれど、二人の魅力的な少女と親密になりたいという気持ちを抑えることはできない。

 そういう邪な動機だけではない。文学が好きになった思いを人に話せる喜びもある。マニアックな話は男子の秀真や比呂志とだけではなく、女子の千由紀や絵梨花ともしてみたい。皐月には昨日一日で学校に来る楽しみが一気に増えた。

 皐月が教室に入ると絵梨花と千由紀はもう席についていた。絵梨花は社会の問題集を見ており、千由紀は相変わらず本を読んでいた。真理はまだ学校に来ていない。

 二人の邪魔にならないようにランドセルの中身を机の中に入れ、ロッカーへランドセルを片付けに行った。皐月と仲の良い花岡聡(はなおかさとし)は別の友達と談笑していて、皐月には話しかけてこなかった。


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