118 よくわからないまま一緒に暮らし、そして馴染んでいく
藤城皐月は勉強の悩みを友人に話すことはない。だが、及川祐希は高校生だからなのか、素直に弱音を吐くことができた。もっと祐希と話をしていたかったが、夕食の時間になってしまった。
祐希て何だろう……。よくわからないまま一緒に暮らし、そして馴染んでいく。二階から一階に下りる階段はあまりに短く、それ以上深く考える時を与えてはくれなかった。
食卓に着くとスーパーの総菜売り場のように、たくさんのコロッケが積まれていた。思わず祐希と顔を見合わせた。
「ちょっと作り過ぎちゃったかな」
いつも品数が多くバランスの良い献立だが、今日は一点豪華のコロッケ祭りだ。
他のおかずはレタスと海苔の和風サラダと、豆腐とわかめの赤だしというシンプルさ。好きなものばかりでテンションが上がってくるが、キャベコロが得体のしれないコロッケだということが不安要素ではある。
「山にいた頃を思い出すね、こういうのって。お母さんっていつも単品ドカーンだった」
「たくさんコロッケを食べてもらいたかったのよ。今日は小鉢なしにさせてもらったわ。皐月ちゃん、いっぱい食べてね」
「ありがとう。好きなおかずだったらそればっか食べたいって思うから、こういう献立は大歓迎だよ。でもキャベコロってじゃがいもが入っていないんだよね。どんなコロッケなんだろう?」
「これって普通のコロッケじゃなかったの? お母さんのいつものコロッケが好きだったのに……」
「まあ食べてみて、絶対おいしいから。キャベコロも好きになると思うよ」
いただきますをして、皐月は真っ先にキャベコロにかぶりついた。じゃがいものコロッケのホクっとした食感と違い、シャキっと軽く食べやすい。揚げ方も上手だ。
「クリームコロッケ?」
「クリーム少なめだけどね。メインは田原の特産品のキャベツ。カレー味がポイントね。私はカレー粉の配合にはちょっと思い入れがあってね、ちょっとこだわってるんだ。どう? 美味しいでしょ」
「すっげー美味いよ、これ! 食べやすいから無限に食べられそうだ。これ、真理にも食べさせてやりたいな……」
「真理ちゃんもたまには家に食べに来てくれたらいいのにね」
「俺、メッセージ送ってみるよ。もしかしたら食べに来るかもしれないし」
皐月はスマホで栗林真理にメッセージを送って、キャベコロを食べ続けた。祐希の食欲が凄く、途中から大食い競争の様相を呈してきた。
「祐希……なんでそんなに食えんだよ」
「元運動部員をナメないでよね」
「そんなに食うと太るそ」
「ブッブー、残念。私は食べても太らない体質なの。私じゃなくて、皐月が太るんじゃないの?」
皐月はキャベコロを10個食べたところで苦しくなり、もうこれ以上食べられなくなった。そっと箸を置くと真理からメッセージが返ってきた。
(真理のこと忘れてた……)
真理はもう晩ご飯を食べ終わったという。キャベコロのことを知っていたみたいで、食べられなくて残念がっていた。
「真理に少しおすそ分けを持って行ってあげたいんだけど、いい?」
「あたなたちがたくさん食べちゃったから、もうほとんど残っていないわね」
「真理も晩飯食べ終わってるみたいだから、二つもあれば十分だと思う。あいつは祐希みたいにバカみたいな大食いじゃないから」
体が横に吹っ飛んだ。ソフトボール部だけあって、祐希は小学生男子より力が強い。
「バカみたいな大食いって何よ! そういうこと言うと、真理ちゃんの分も食べちゃうぞ」
「食うなよ、バカ!」
頼子は二人のやり取りを止めもせず、嬉しそうに笑いながら眺めていた。
「これだけ作れば、足りると思ったんだけどな……。こんなことなら、もっと作っておけばよかったわ。今から真理ちゃんに持って行けるよう、用意するね」
「ありがとう」
これで真理に会える口実ができた。おすそ分けを持っていくとメッセージを送ると真理は喜んでいた。なんだか目頭のあたりがぞわぞわしてきた。




