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藤城皐月物語 2  作者: 音彌
第5章 楽しい小学校生活
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240 集団登校

 藤城皐月(ふじしろさつき)は登校前に母の小百合(さゆり)と住み込みの及川頼子(おいかわよりこ)に挨拶をして家を出た。

 皐月の家の前が班登校の集合場所だ。皐月が一番乗りだったが、すぐに3年生の岩月美香(いわつきみか)と4年生の山崎祐奈(やまざきゆうな)がやって来た。

「美香ちゃん、祐奈(うな)ちゃん、おはよう」

「皐月君、おはよう」

「おはよう、皐月ちゃん!」

 美香は皐月のことを「皐月ちゃん」と呼ぶ。前に入屋千智(いりやちさと)と美香の教室に行った時に、千智の前で皐月ちゃんと呼ばれて以来、千智からも時々「皐月ちゃん」と呼ばれるようになった。

「あれっ? 美香ちゃん、カラーし直した?」

「うん。ちょっと色が落ちてきちゃったから。皐月ちゃんも染め直した方がいいよ」

「そうだね……修学旅行前に一度、美香ちゃんのお店に行こうかな」

「おいでおいで〜」

 美香の家は美容室だ。皐月は髪のカットは馴染みの床屋でしているので、カラーだけを美香のお母さんにしてもらう。

「祐奈ちゃんもカラーする?」

「私はいいかな……。だって美香ちゃん、先生に嫌なこと言われたんでしょ?」

「うん。でも友だちはみんな褒めてくれたよ。それに髪を染めたら、皐月ちゃんが心配して教室に来てくれたの」

「え〜っ。皐月君なんかが来て、何が嬉しいの?」

 皐月は祐奈になんか呼ばわりをされ、苦笑するしかなかった。でも祐奈が相手だと腹は立たない。


「皐月ちゃん、アイドルみたいな女の子を連れて来てくれたんだよ」

「えっ? それどういうこと? ねえ皐月君。美香ちゃんのとこに女の子と一緒に行ったの?」

「ああ。祐奈ちゃんが好きな入屋さんと一緒に行ったんだ」

「嘘っ! マジで? 美香ちゃん、入屋さんとお話したの?」

「少しだけ話したよ。皐月ちゃんが私の友だちに『美香ちゃんのこと守ってあげてね』って言ってくれたから、友だちが『いいよ』って言ってくれて、それで入屋さんが友だちに『ありがとう』ってお礼してくれたの。その後、私の髪のこと褒めてくれた」

「いいな……。ねえ、皐月君。私のクラスにも入屋さん連れて来てよ」

「なんだよ。さっきは俺なんかが来て何が嬉しいのかって言ってたくせに」

「入屋さんがいるなら話は別!」

 祐奈は同じ町内の月花博紀(げっかひろき)に憧れているので、皐月はあまり優しくしてもらえない。

 祐奈を見ていると、同じクラスの松井晴香(まついはるか)のことを思い出す。晴香は博紀のことが一番好きだが、自分のことも嫌いではないと思っている。

 それどころか博紀に次いで二番目に好かれているような気がする。皐月は祐奈に晴香と同じ雰囲気を感じる。

「祐奈ちゃん、千智は俺には絶対にそういう言い方しないよ」

 皐月にしては珍しく、祐奈を冷たい目で見下ろした。祐奈の顔色が変わったタイミングで背を向けると、祐奈が皐月の腕を掴んだ。


「おはよ〜。朝から仲がいいね〜、祐奈ちゃんと皐月君は」

 喫茶パピヨンのマスターの息子、今泉俊介(いまいずみしゅんすけ)がやって来た。俊介はいつも朝から元気がいい。俊介の的外れの言葉に、祐奈は何も言い返せなかった。皐月は祐奈の肩を抱いて話しかけた。

「こないださ、俊介と千智と一緒に麻雀したんだ。直紀(なおき)と博紀もいたよ。今度そういう機会があったら、祐奈ちゃんも一緒に遊ぶ?」

「えっ……いいの?」

「ああ。麻雀じゃなくて他の遊びでもいいよ」

「皐月ちゃん! 私も一緒に遊ぶ!」

「そうだね。美香ちゃんも一緒に遊ぼうか」

 無邪気に喜ぶ美香の横で祐奈がほっとした顔をしていた。皐月は軽く祐奈を引き寄せた後、にこっと笑って祐奈から離れた。


「皐月君。僕さ、最近入屋さんと挨拶ができるようになったよ」

「へぇ〜。千智が他のクラスの男子と挨拶するなんて珍しいな」

「でも、話はまだできていない。廊下ですれ違った時に僕が手を上げると、入屋さんが帽子のツバをクイッってやってくれるだけ。一緒にいた友だちに羨ましがられたな」

「それって適当にあしらわれているだけなんじゃないの?」

「そんなことないって。バカだな〜、皐月君は。女の人にとって帽子は服装の一部だから、挨拶でいちいち帽子を取らなくてもいいんだよ。それに、僕は入屋さんに反応してもらえるだけでも嬉しいんだから」

 アイドル好きの俊介のことだから、千智のことも好きに違いないと皐月は予想している。今の千智は整形なしでも並みのアイドルよりもかわいい。

「そっか……。一度は一緒に遊んだ仲だもんな。敬意を表してくれたんだ。でも、千智は校内ではなるべく男子と話をしないようにしてるんだから、そっとしておいてやれよ」

「えっ? なんで?」

「いろいろあったんだよ。女子の間の問題だから、直紀に聞いてもわかんないと思う。俺に聞いても、何も教えてやらないからな」

「んん……、わかった」


 皐月の家の隣の旅館に住んでいる近田(こんだ)兄弟がやって来て、班のみんなが揃った。皐月としてはもっと早く学校に行って、クラスのみんなとお喋りをしたいところだが、集団登校だとそうはいかない。

 東京に住んでいた千智は個別登校だったと言う。皐月は個別登校に憧れたこともあったが、今朝のようにこうして近所の子たちとお喋りするのも楽しい。だが、嫌な奴が同じ班にいたら地獄だろうなと思う。


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