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藤城皐月物語 2  作者: 音彌
第4章 深まる季節
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237 健康な思春期の少年

 藤城皐月(ふじしろさつき)は隣の部屋との壁代わりになっている襖を超えて、及川祐希(おいかわゆうき)の部屋に入った。蒲団の上に座っている祐希と距離を取るため、皐月は自分のベッドを背もたれにして畳の上に座った。

「で、どうしたの?」

「うん……。前から聞きたかったんだけど、皐月って真理ちゃんのこと好きなの?」

「そりゃ好きだよ。当たり前じゃん」

「皐月、今日も女の人の匂いがした。前も真理ちゃんと会った日に男の子じゃ絶対にあり得ない匂いをさせてたけど、何やってたの?」

 祐希が不安げだが、怒っているような顔をしている。祐希は皐月と栗林真理(くりばやしまり)が自分が恋人とすることをしていたと疑っているようだ。

「何って、飯食ってカラオケしてただけだけど」

「それだけ?」

「そうだよ」

 尋問されているみたいで気分が悪い。

「匂いのことは説明できる。真理が凛姐さんの香水をつけてたから、多分その匂いが俺に移っちゃったんじゃないかな。祐希って本当に鼻が利くんだな」

「また人のことを犬みたいに言う……」

 皐月がキレ気味に理屈っぽく言うと、祐希が黙った。祐希の追及をやり過ごすことができたホッとしていると、第二の矢が放たれた。

「真理ちゃんと千智ちゃん、どっちが好き?」

 皐月は答えにくいことを聞いてくる祐希を恨んだ。今の自分なら明確に答えることができる。だが、ここで本当のことを言うと、祐希の向こう側にいる千智を傷つけることになりかねない。

「真理も千智も好きだよ。どっちが好きだなんて答えられない」

「ん〜、そうきたか……。じゃあ質問を変えるね。真理ちゃんと千智ちゃん、恋人にするならどっちがいい?」

 祐希が皐月の心を探るような顔をしている。この質問は祐希の質問というよりは千智からの質問だ。だが、千智が祐希に聞いてもらいたいと思っているはずがない。祐希が千智のために、皐月の好きな人が誰なのかを知っておきたい、といったところか。そう考えると、皐月は気持ちが軽くなった。

「恋人? そうだな……二人とも魅力的だから、両方の恋人になれたらいいな」

「皐月、二股かけるの? そんなのダメだって!」

「何言ってんの? 現実と妄想をごっちゃにするなよ。それにさ、こんな話を二人に聞かれたら怒られるぞ? 人を比べるようなことを言っちゃダメだよ」

 同じ「ダメだ」という言葉を返すと、祐希がしょんぼりとした。我ながら嫌らしいレトリックを使ったと思った。皐月は祐希が思っていたよりも弱いことを、この時知った。

「それにさ、もし千智と祐希のどっちが好きかって聞かれたら、どっちも好きで比べられない、って答えるよ。俺、祐希のこと好きだから」

「えっ?」

「千智と祐希、どっちを恋人にしたいかって聞かれたら、両方って答えるよ。どういう意味かわかる?」

「……」

「祐希を恋人にしたいってことだよ」

 皐月は蒲団の上に乗って、祐希に身体を寄せた。皐月が凛々しく見つめると、祐希はうつむき加減になった。


 皐月だって健康な思春期の少年だ。祐希に性的な興味がないわけではない。今の祐希ならキスだってできる。人の性的なことに踏み込んでくる祐希に対し、皐月は攻撃的な気持ちになっていた。

 そんな祐希をしばらく眺めていると、気持ちが鎮まってきた。皐月は体を引いて、元いた畳の上に戻った。祐希の古い木綿掛け蒲団は真理の羽毛蒲団に比べて硬い手触りだった。

「ねえ……私、恋人いるんだよ?」

「そうみたいだね」

「もう……私を恋人にしたいとか、変なこと言わないでよ」

 怒っているようなことを言っているが、皐月には満更でもない感じにも見える。

「祐希が変なことを聞いてくるから、ちょっとからかっただけだよ。俺、もう寝たいんだけど、部屋に戻ってもいいかな?」

「あっ、ごめん。もう遅いね」

「明日は学校が休みだから、もうちょっと遅くまで付き合いたいんだけど、いつもならもう寝てる時間だからね。じゃあ俺、寝るわ。おやすみ」

「おやすみ」

 皐月は自分のベッドに戻り、祐希に軽く手を振って襖を閉めた。寝ると言ったせいか、急に眠くなった。寝付きのいい皐月は、一人になるとすぐに寝てしまった。


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