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藤城皐月物語 2  作者: 音彌
第4章 深まる季節
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223 高揚感に包まれて

 給食の時間はいつもより雰囲気が良かった。これは昨日の学活の時間で京都の訪問先を決定したからだ。修学旅行のイメージが具体的になったことで、クラスの児童の高揚感が上がっている。

 藤城皐月(ふじしろさつき)の班では二橋絵梨花(にはしえりか)が普段よりも明るくなっていた。

 この日は控え目な絵梨花が饒舌になっていて、東寺(とうじ)立体曼陀羅(りったいまんだら)のことを一所懸命語っていた。皐月は絵梨花の昨日の「私が最近明るくなったのはね、藤城さんのおかげでもあるんだよ」と言った言葉を思い出した。

 吉口千由紀(よしぐちちゆき)も自分から話をするようになってきた。

 今までは心を閉ざすように本の世界に没入していたが、自分から班長に立候補したりと、同じ班のメンバーに対してだけは心を開き始めたように見える。千由紀はスケジュール通りコースを回れるかどうかを心配していて、どこでお土産を買おうかみんなに相談していた。

 栗林真理(くりばやしまり)だけはいつもと変わらないように見える。

 今日はみんなの話を聞く側に回っているようだが、ときどき寂しそうな顔をする時がある。絵梨花は気付いてなさそうだが、皐月にはその小さな変化がわかる。修学旅行までに真理と二人で会う機会を作らなければならないと思った。

 神谷秀真(かみやしゅうま)岩原比呂志(いわはらひろし)は修学旅行に向けて情報収集を積み重ねていて、オタク度がパワーアップしている。

 今までの二人は皐月がいなければ班の女子たちと話ができなかったが、京都の訪問先を決める過程で班の女子と直接話せるようになった。秀真や比呂志が絵梨花や真理や千由紀と喋っているところを見て、クラスの男子たちの見る目が羨望を含んだものに変わった。


 給食が終わって掃除が終わると、男子たちは校庭に出て3組とドッジボールをするという。今日は勝つぞと気炎を揚げていた。

「おい、藤城。お前も来るよな?」

「悪ぃ、(しげ)。今日は行けないわ」

「なんだよ、付き合い悪いな。どうせまた、女と喋ってんだろ?」

「修学旅行実行委員の仕事があるんだよ」

 村中茂之(むらなかしげゆき)はクラスで一番、皐月が女子と仲良くしていることを嫌っている。少し離れたところにいた月花博紀(げっかひろき)が慌ててやって来て、茂之のことを諌めた。

「おい村中、皐月は委員会で忙しいんだからしょうがないだろ」

「でもこいつがいねーと、チーム力ががた落ちじゃん。最近、3組に負けっぱなしだぞ、俺たち」

「そんなに負けてんのか? あーっ、俺もドッジやりてーよ! 最近全然やってねえし」

 皐月は根性がないので、体力筋力系の運動はあまり得意ではない。だが、器用なので技術重視の球技は得意だ。ドッジボールは皐月の特性に合っている。

「悪いな、皐月。俺が修学旅行実行委員を代わってもらったから、遊べなくなっちゃって」

「いや、博紀は気にしなくていいよ。俺は実行委員も楽しんでるし。それより今日は勝てよ」

「ああ、今日は負けねえ」

「藤城、修学旅行が終わったらドッジ付き合えよな」

「当ったり前じゃん!」


 後ろ髪を引かれる思いで皐月は児童会室へ向かった。茂之とはあまり馬が合わないが、クラス対抗の球技の時は百年来の親友のように仲良くなる。皐月も茂之と遊ぶのは楽しいし、好きだ。茂之はクラス対抗の時になると博紀よりもキャプテンシーを発揮する。

 ドッジボールは楽しいが、修学旅行の準備をすることも楽しい。楽しいことは全取りしたいという欲張りな皐月だが、今日は物理的に不可能だ。ドッジ脳になった気持ちを仕事脳に切り替えることにした。


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