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藤城皐月物語 2  作者: 音彌
第4章 深まる季節
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222 修学旅行のしおりのイラスト

 この日の朝の会が終わった後、修学旅行実行委員の藤城皐月(ふじしろさつき)はクラスのみんなにアンケート用紙を配った。その後、同じく実行委員の筒井美耶(つついみや)がアンケートの主旨を説明した。

 修学旅行では「どこに行くことを楽しみにしているか」とその理由、これらを修学旅行のしおりに掲載すること。それにプラスして、しおりを彩るイラストを募集した。各教室に備え付けられている鍵付きの御意見箱へ、明日の放課後までアンケート用紙を投函するようお願いをした。

「筒井、説明ありがとう」

「うまく言えたかな?」

「完璧!」

 壇上で言葉を交わした後、お互いの席に戻った。これから読書タイムが始まる。皐月は志賀直哉の『城の崎にて』をもう一度読み返すことにした。


 2時間目が終わった中休み、6年1組の黄木昭弘(おおぎあきひろ)が皐月のところへやって来た。遠慮がちに教室の中を見ていた昭弘を見つけた皐月は、事情を察して廊下に出て行った。

「黄木君、もしかしてイラストできた?」

「うん。ちょっと見てもらおうと思って持ってきた」

「明日の委員会で良かったのに」

「今日見てもらうと、直すところがあったら明日までに直せるから」

 皐月の知らないアニメのクリアファイルにB5の紙が何枚か入っていた。取りだしてみると、1枚目はしおりの表紙のイラストが描かれていたものだった。

「うわっ、凄っ!」

 昭弘の描いたイラストは精密に描かれた八坂の塔(やさかのとう)を背景にした8人の男女のイラストだった。

「もしかして、これって俺たち?」

「そうだよ」

「ちょっとカッコ良過ぎじゃん、俺。気ぃ使わなくたってよかったのに」

「みんなのいいところを描きたかったんだ」

 街でよく見る似顔絵は悪いところを誇張して描かれている。だが昭弘は外見よりも内面の良さを引き出して描いているように思えた。皐月はそこに昭弘の性格の良さを見た。

「でも、自分はギャグみたいじゃん。しかも一番後ろに目立たないようにしてるし」

「一応、これが僕のキャラだから。自分が描く自分の絵はこのキャラにしてるんだ」

「へ〜。そういうのって、なんだか漫画家っぽいな」

 レタリングも間違いがなく、完璧な仕上がりだった。文句をつけるところは何もない。皐月は昭弘のイラストが歴代最高の表紙絵になると思った。

「ありがとう。早速しおり作りに取り掛かるよ」

 昭弘がはにかみながら笑っていた。皐月はまだ昭弘と用事以外の会話をしたことがなかった。皐月は昭弘ともっと仲良くなりたい気持ちになっていた。


「黄木君たちの班って、京都はどこに行くの?」

「僕たちは清水寺と伏見稲荷、平等院を回るコースを選んだ。……藤城君は?」

 昭弘が会話を続けようとしてくれたことが嬉しかった。皐月は勝手に昭弘のことを友だち認定した。

「俺たちは自分たちで考えて、独自のコースを作った。回るのは俺たちも清水寺とか伏見稲荷とかメジャーなところばかりなんだけど、学校からのお薦めよりも1カ所多い、5カ所を回る予定なんだ」

「5カ所! そんなことできるの?」

「鉄道と徒歩だけで移動するっていうプランにしてね。ちょっとした強行軍だよ。バスみたいに渋滞による遅れはないから、きっとうまくいくと思うんだけど、ちょっと欲張り過ぎたから、もしかしたら失敗するかもしれない」

 皐月と昭弘は中休みが終わるまでお喋りをし続けた。修学旅行の話だけでなく、昭弘の好きな漫画やアニメのことで話が盛り上がった。皐月もそれなりにアニメを見るし、漫画を描く真似事をしたこともある。共通の話題には事欠かない。

 昭弘がどう思っているかはわからないが、皐月は昭弘と波長が合うように感じた。きっと昭弘も自分のことを友達認定してくれているだろう。


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