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藤城皐月物語 2  作者: 音彌
第4章 深まる季節
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219 姫街道

 藤城皐月(ふじしろさつき)二橋絵梨花(にはしえりか)の通学路を歩いて帰ろうと思った。一緒に帰ろうと誘ったのは皐月だから、自分が遠回りをしなければならない。

 皐月が絵梨花と二人で並んで歩くのは、学校内も含めてこれが初めてだ。背の低い絵梨花と歩いていると、同じ班の4年生の女の子と一緒にいるような気持ちになる。自分がお兄さんの役割を果たさなければならないといった変な義務感が芽生えてくるが、精神年齢は明らかに絵梨花の方が上だ。

「修学旅行実行委員って大変?」

「ん〜、そうでもないよ。みんなに助けられているから、思ってたよりも何とかなってる。児童会長の江嶋とか、書記の水野さんも実行委員なんだけど、この二人がすごく有能で、ほんと助かってる」

「そう。よかったね」

 普段歩かない道を歩きながら、学校の外で話したことのない女の子と喋っている。皐月は違う世界にいるような気になってきた。

「委員会ってどんなことをしているの?」

「今はね、主に修学旅行のしおりを作っているかな。早くみんなに配れるよう、急いで作らなくちゃね」

「頑張ってるのね」

「うん。怠け者の俺にしては珍しく頑張ってる。いいしおりができると思うよ」

 小学校の校庭の並木に沿って歩き、姫街道(ひめかいどう)と呼ばれる県道5号線を左に曲がれば絵梨花の家に行ける。歩きながら皐月が委員会でのしおり作りの話をすると、絵梨花は興味深そうに聞いてくれた。

 姫街道は歩道橋を超えないと渡ってはいけない、という稲荷小学校のルールがある。絵梨花の家に行くためには、歩道橋を渡って通りの向こうへ行かなければならない。


「俺、この歩道橋を渡るの初めて」

 歩道橋の上から見る景色は新鮮だった。姫街道は豊川駅前通りに比べて格段に交通量が多い。

「歩道橋の上から見る景色っていいよね。私、学校帰りにいつもこの道を見てる」

 皐月の日常生活は自動車とほとんど縁がない。こうしてぼんやりと流れる車を見続けるのも悪くない。

「道路って空が広いね。俺、移動はいつも自転車だからさ、歩道橋の上に行くのって面倒だったんだよね。こんなにいい所だったら、自転車を下りて、歩道橋を上ってみればよかった」

 涼風が気持ち良かった。しばらくの間、皐月は絵梨花と姫街道を行き交う車を無言で眺めていた。

 時々、車を運転している人と目が合うことがある。運転手から見ると自分たちは恋人同士に見えるのかなと思っていたら、タクシーの運転手と目が合った。その男は皐月の母がお座敷に行く時にいつも指名する永井だった。


「藤城さんと真理ちゃんって幼馴染なんだってね。家は近いの?」

 ずっと修学旅行の話をしていたのに、急に栗林真理(くりばやしまり)の話題に変わった。

「そうだね。近いかな。昔はすぐ近くに住んでいたんだけど、真理が隣町に引っ越して離れちゃった。家が近かった時はお互いの家を行き来してたよ」

「いいな、幼馴染って。私は名古屋から引っ越してきたから、豊川でそういう仲のいい友だちっていないの」

「そうなんだ……」

「うん」

 重い話をしていても、絵梨花はまるで深刻さを感じさせない。絵梨花はいつもふわふわと柔らかく、軽やかだ。

「真理とはいい友だちになれそう?」

「もうなってるよ」

「そっか」

「うん」

 皐月のことを見上げる絵梨花の顔が少し誇らしげに見えた。

「でも中学が別々になったら、会う機会が減っちゃうかな。同じ中学に行けたらいいんだけど、真理ちゃんは私よりも上を目指しているから」

「二橋さんは真理が目指している中学を受験しないの?」

「私は祖母と母が通っていた学校に行くように言われているから、志望校は変えられないの」

「へぇ……。なんかそういうの、ヤダな」

「私は全然嫌じゃないよ。むしろ憧れているくらい。だからどんなにお勉強ができても、私はその学校に行きたいの」

「あっ、そうなんだ。俺、名古屋の学校のこと何も知らないから……。学校ごとにそれぞれの魅力があるんだね」

 皐月は真理から受験する学校の魅力について聞いたことがなかった。女子校に行く真理は自分に女子校の良さを語る必要がないとでも思っているのだろうか。皐月も自分の行かない学校にはあまり興味を持てなかったので、あえて聞こうともしなかった。


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