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藤城皐月物語 2  作者: 音彌
第4章 深まる季節
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217 音楽室から聞こえる美しいメロディー

 委員会の行われる理科室に移動している間に、藤城皐月(ふじしろさつき)筒井美耶(つついみや)に委員会の仕事の依頼をした。

「筒井と中澤さんに頼んだページ、今日やってく?」

「どうしようかな……。そんなに量がないんだったら、私が家に持ち帰って、一人でやっちゃってもいいんだけど」

「それは全然構わないよ。でも、そうすると中澤さんはその仕事に携われなくなっちゃうけど、いいのかな?」

「やることが減る分にはいいんじゃない。私から花桜里(かおり)ちゃんに話しておくよ」

「じゃあ、その件は筒井に任せた。ありがとうな」

 理科室に着くと、もう修学旅行実行委員のみんなが集まっていた。副委員長の江嶋華鈴(えじまかりん)と書記の水野真帆(みずのまほ)がアンケート用紙を用意して、各クラスの委員に配付し終わっていた。

 今日は委員会を早く終わらせようと、昼休みに華鈴たちと話をしてあったので、華鈴と真帆の二人が皐月の代わりに仕事を進めていた。

「各クラスの実行委員にアンケートの説明もしておいたから。もう一度委員長から念押しで説明してもらって、委員会を解散しましょう」

 華鈴は根回しまで済ませていた。華鈴は委員長のやることがなくなってしまいそうな勢いで仕事を進めてくれる。この調子なら、今日の修学旅行実行委員会はあっという間に終わる。


「今から修学旅行実行委員会を始めます。まずはじめに、今みんなの手元にあるアンケート用紙を見てください」

 委員のみんなが封筒から用紙を取りだし、文面に目を落としたのを確認して皐月は話を続けた。

「委員の皆さんにはこのアンケート用紙を明日の朝の会でクラスのみんなに配ってもらいます。この用紙を明後日の帰りの会までに回収してください。明後日の委員会でアンケートを集計します」

 なんとなく委員たちが不安そうな顔をしているので、皐月は砕けた口調でもう少し掘り下げた話をした。

「このアンケート用紙の文章、よくできてるよね。これならこのプリントを読むだけでアンケートの目的が全部わかると思う。だから実行委員はクラスのみんなに説明しなくても大丈夫。配って集めるだけでいいよ」

 みんなの表情が少し緩んだ。

「朝の会で言って欲しいことは、このアンケートは、出したくない人は出さなくてもいいってこと。でも、たくさん集まると実行委員としては嬉しいから、『ご協力お願いしま〜す』ってことも、軽い感じで付け加えてね」

「そんな適当な感じでいいのか?」

 2組の中島陽向(なかじまひなた)が不安そうに聞いてきた。

「いいよ。だってこの学校っていろんな人がいるじゃん。出したくないって人もいれば、面倒だったりうっかりだったりして出さない人もいると思う。でも、そんなの俺たちは責められないからさ、実行委員からのお願いはこれくらい緩くていいんだよ」

「ふ〜ん。そんなものかね……」

「というわけで、今日の修学旅行実行委員会は終わります。明日は委員会をお休みにします。明後日の委員会はアンケートを集めるだけで終わる予定です。では、解散」


 アンケート用紙を封筒に戻した委員たちが帰ろうとしている時、音楽室からピアノの音が聞こえてきた。美しいメロディーにみんなの足が止まった。

 音楽室のピアノは休憩時間や放課後などで自由に使ってもいいことになっているので、誰かがピアノを弾いているということはよくある。だが、こんなに本格的な演奏を皐月は聞いたことがなかった。

 クラシック音楽に疎い皐月にはこの曲が誰の何の曲なのかわからない。演奏に聞き入っていると1組の黄木昭弘(おおぎあきひろ)が理科室を出ようとしていたので、皐月は昭弘をを呼びとめた。

「黄木君、イラストの進み具合はどう?」

「絵は描けている。あとはレタリングだけで完成」

「すご〜い! 仕事が早いねっ。じゃあいつでもいいから、完成したら委員会に持ってきてくれるかな?」

「うん、明後日のアンケートと一緒に持ってくるよ」

「助かるよ。ありがとう」

 昭弘が理科室を出る頃には、すでにピアノの演奏が終わっていた。音楽の先生が弾いていたのかな、と皐月は思った。短い間の出来事だったが、気持ちのいい時間だった。

 皐月は委員全員が理科室から出て行くところを見送るつもりでいた。だが華鈴はまだ帰ろうとしない。真帆はまだタブレットを片付けていない。

「じゃあ、俺たちも帰ろうか」

 たまには早く家に帰りたいので、皐月は華鈴と真帆に帰宅を促した。


「藤城君って明日の委員会、休みって言ったよね。じゃあ規則に理由をつける作業はどうするの?」

「ああ……あれは予定通り、明日やるよ。昼休みに俺たちだけでやるつもりだったけど、いいよね」

「そうだよね。もしかして忘れてたのかなって思っちゃった」

 5年生の時、皐月はよく忘れ物をして先生に怒られていたので、華鈴は皐月に対して忘れっぽいイメージを持っている。

「ちゃんと覚えていたよ。水野さんに音声入力をお願いするんだったよね」

「そう。一応、明日はマイクを持ってくる」

「音声入力、ちょっと楽しみだな。あと水野さん、もうタブレット閉じてもいいよ。これ以上、委員会の話しはしないから」

「わかった」

 会話が記録されていると思うと、皐月はいつも少し構えて話をしてしまう。精神的に真帆に支配されているような気分になる。

「じゃあ、帰ろうか」

「私たちはこれから児童会室に行くから。たまには児童会の仕事もしないとね。じゃあね」

「おう……。じゃあ、また明日」

 皐月は華鈴と真帆が児童会の会長と書記だということをすっかり忘れていた。児童会の二人に頼り過ぎていることに罪悪感を感じたが、二人はそれほど大変そうには見えない。皐月は華鈴と真帆の精神的な強さに感心した。


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