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藤城皐月物語 2  作者: 音彌
第4章 深まる季節
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215 京都での訪問先の決定

「あとは問題なさそうですね。東寺(とうじ)は標準的な見学所要時間です。よく考えられていますね。京都駅でお土産タイムですか。時間的にも余裕がありますね」

「途中で遅れることがあったら、京都駅での時間を削るつもりでいます」

 これは班長の吉口千由紀(よしぐちちゆき)の意志だ。訪問先の移動の途中でお土産を買うことで、予定に遅延が起こることを織り込んでいる。

 でも、できるだけ京都駅での買い物の時間は確保したいと思っているので、スケジュールの厳守を目標にすると先生に言い切った。

「このスケジュールだと、バスをやめるのは賢明だと思うわ。京都は鉄道以外は信じちゃダメって言われています。よく鉄道だけでルートを作りましたね」

「鉄道で行けない場所は今回は見送りました。その分、みんなが行きたいところは全て回れると思います」

「先生がちょっと気になるのは、スケジュールが詰まり過ぎているように感じることです。お手洗いの時間は大丈夫ですか?」

「……あまり考えていなかった」

 鉄ヲタの岩原比呂志(いわはらひろし)はトイレ休憩のことを見落としていた。旅慣れていない女子たちも、比呂志の情熱に引っ張られてこの問題に気付かなかった。

「お手洗いは最優先に考えてあげてね。後の予定に支障が出ることがあるかもしれないけれど、その場合は訪問先を一つ諦めなければならないことも覚悟しておいてくださいね。決してお手洗いに行く人を責めてはいけませんよ。その時は予定の立て方が悪かったというように、謙虚に受け止めてくださいね」

「はい」

「大丈夫かな……」

 千由紀が深刻な表情になっていた。

「とにかく、全ての訪問先で必ずトイレに行くことにしよう。そのうえで全ての訪問先には必ず行こう」

 藤城皐月(ふじしろさつき)は千由紀の心配を取り除こうとした。場合によっては訪れるところを削ったり、駆け足で回ることも厭わないと考えた。その時は自分が汚れ役を引き受けるつもりだ。


「やっとわかった。学校が勧めるコースの訪問先が少ない理由が。トイレの時間を考慮しているんだね」

「バスを使った移動時間もかなり余裕を持たせているのよ。バスは絶対に思うようにはならないから」

 学校が配付したモデルコースに批判的だったのは男子の3人だった。男子は女子のお手洗いに対して配慮が欠けていた。皐月はこの見落としを恥ずかしく思った。

「3班の京都プランはこれでいいでしょう。今後も情報収集は続けて、補足情報をどんどん追加していってくださいね。旅行の3日前にもう一度確認したいので、その時は再度提出をお願いします」

 皐月たちよりも先に訪問先の予定表の検証が終わった班はネットを使って訪問先や使用する交通機関などの情報収集をしている。補足情報が補完された予定表は後で先生に提出しなければならない。だがこれは修学旅行3日前に提出すればよいので、時間をかけてじっくりと調べることができる。

「先生、再提出で旅行プランが不採用になることはあるんですか?」

 千由紀が心配そうな顔をして先生に聞いた。

「いいえ。予定の変更さえなければ、その心配はありません。旅行の当日に先生たちが児童の行き先を詳細に把握しておきたいから、より詳しい情報が欲しいのです。行動を管理されているようで嫌かもしれませんが、児童の安全を考えてのことですので了承してくださいね」

「はい」


 皐月はこの学活が楽しくて仕方がなかった。修学旅行初日の京都での班行動に関しては、担任の前島先生が全てを主導して話を進めてくれる。

 修学旅行実行委員の藤城皐月と筒井美耶(つついみや)はこの件に関しては何もしなくていいと先生から言われている。実行委員の限界を超えることは先生に任せておけばいいと言われたことで、皐月と美耶は普通の6年生の児童として、心から修学旅行の準備を楽しむことができた。

「情報収集は手分けしてやりましょう」

 千由紀から班のみんなに指示が出た。

「私は鴨川デルタと下鴨神社を調べる。藤城君は八坂神社から祇園を通って祇園四条駅までね。栗林さんは清水寺と産寧坂、二寧坂、ねねの道。二橋さんは東寺。神谷君は伏見稲荷大社と伏見神寶神社。岩原君は鉄道の乗り継ぎや徒歩での移動経路と京都駅をお願いします」

「清水寺から八坂神社までの街歩きは俺も調べるよ。真理、一緒に調べようぜ」

「皐月が全部調べてくれてもいいよ」

「なんだよ。清水寺って言ったら産寧坂と二寧坂はセットだろ?」

「冗談よ。どんなお土産物屋さんがあるか楽しみだな」

 千由紀はそれぞれが行きたいところを調べるように言ったけれど、この班の誰もが人の領域にも首を突っ込んできそうな雰囲気があった。皐月たちの班は修学旅行の準備を通じて、今まで以上に仲良くなっていた。


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